TRENDIA CLASSIC

草みち

田山録弥

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『此方の方に来たことはあつて?』

『いゝえ』

『でも、小さい時には遊びに来たことはあるでせう? そら上水の岸で、つばなや何か取つたことがあるぢやないの?』

『さうだつたかしら?』

妹の種子は考へるやうにして言つた。

『あなた忘れつぽい人ね。そら、四国にゐる姉さんがまだ家にゐた時分よ。よく一緒に行つたぢやないの? ほら、あの肥つた喜代子さんといふ姉さんのお友達と一緒に――?』

『さうかしら?』

『忘れつぽい人ね?』

常子は呆れたやうに、投りつけるやうに言つて、そのまゝ静かに歩いた。かれ等の前には肥つた半白の父親と背の低い丸髷の母親とが並んで歩いて行つてゐた。田舎の街道は車や荷馬車で混雑してゐて、自動車がやつて来る度に、白い埃がぱつとあたりに漲るやうにつた。道の両側には、新たに建てたらしい二階の長屋が、まだ半分は空屋で長く/\続いてゐた。空地には草などが深く繁つてゐた。

父親も母親も何か頻りに話し合ひながら並んで歩いて行つてゐるのが、あとから行く種子達にもそれとわかつた。をりをり父親は母親の方を見た。母親も何か頻りに熱心に話した。

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