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TORENDIA

赤い鳥居

本文約4,800字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

静夫は、ある女性への抑え難い思慕を抱きながら、日夜その面影を求めて町の周辺を彷徨う。高台の道や丘、林、そしてかつて女性への恋心を胸に跪いた小さな赤い鳥居のある稲荷の社など、風景の至る所にその面影を見出し、愛おしむ。都会の華やかな女性たちの姿に心が揺らぎ、自らの不純さに苦悩しながらも、女性の家を遠くから見つめ、その純潔を守る星に思いを馳せる日々。静夫は、日常の景色の中に深く沈みゆく抗いがたい恋心を抱き、切実な焦燥と空想の中でその愛を追及し続ける。

田山録弥

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🎧 赤い鳥居 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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一

静夫はその高台のどんな細い道をもよく知つてゐた。そこを出れば坂がある。丘がある。林がある。その林は疎らで、下には萱や薄が生えてゐる。その薄の白い穂に夕日が銀のやうに光つて見えてゐる。さうかと思ふと、初夏の頃などには、浅い淡い緑がこんもりと丘を包んでそれが晴れた空に毬かなんぞのやうにくつきりと捺されてゐるのが手に取るやうに眺められた。かれは何遍そこから川の方へと下りて行つたか知れなかつた。

しかし坂を下りても川はすぐには見えはしないのであつた。もし、そこに帆が浮んでゐなかつたならば――緩く垂れた、または大きく孕んだ帆が見えてゐなかつたならば、誰でもそこにさうした大きな川が溶々として流れてゐるとは夢にも思はなかつたであらう。否、丘の裾に添つたやうな道をぐるぐると廻るやうに、行つても行つてもその岸には出ずに、却つて反対に松の木の疎らに生えた丘の上へと出て行くのを見るであらう。そしてその上り切つたところで、始めて布を引いたやうな大きな川に接して、その眺めの美しいのに眼をるであらう。しかし静夫に取つては、さうした誰でもが喜ぶやうな美しい眺めよりも、却つて林の中や森の下道や赤く一ところ抉られたやうになつてゐる絶壁の方が好ましいらしく、そこに来てもいつもちよつと立留つて一目眺めただけで、そのまゝ街道を向うの方へと歩いて行くのが例であつた。

で、その街道――それも時に由つては、此方から向うに越して行く車やら荷馬車やら乗合自動車やらの轍のために泥濘が深くこね返されて、それを拾つて歩くのにも容易でないのであつたが、その深い幾条かの泥濘の轍の中にも、かれはその美しい幻影を雑ぜることが出来た。かれはそこにその眼を見た。その眉を見た。その豊かな白い頬を見た。

二

その街道を八分通り上つたところから、赤土の崖になつてゐるところをひよいとのぼると、疎らなひよろ松の林があつて、下草と言つてもさう沢山は生えてゐないのであつたが、そこに晩春の頃には、よく山木瓜の花が二つ三つ雑つて咲いてゐるのをかれは眼にした。かれは赤い田舎々々した花を採つてよくそれをその唇に当てた。

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