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TORENDIA

黒猫

本文約3,200字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

芸術は刹那的で醗酵的であるべきだと主張する著者が、自身の創作観や文壇の動向、歌と俳句の性質の相違、古典作品の解釈などを綴る評論集である。経験を貯蔵することの不可能性を説き、芸術的気分や燃焼的態度の中にのみ現れる「芸術の黒猫」について考察する。また、新聞雑誌の文芸批評のあり方や、芭蕉の足跡を地図から読み解く試みなど、独自の視点から文学的、歴史的な論考を展開し、主客融合の境地を目指す創作の要諦を論じる。

田山録弥

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🎧 黒猫 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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知識は堆積し且つ貯蔵して置くことが出来るが、芸術にはそれが出来ぬ。何故なら、芸術は飽くまでも刹那的で且つ醗酵的であらねばならないからである。

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曾ては、かういふことを人も言ひ自分も言つた。四十、五十になつたら、ちつとは世の中のこともわかるだらう。少しはすぐれたものも書けるだらうと。想像は全く反対であつた。経験などは決して貯めて置くことの出来るものではなかつた。たとへ貯めて置いたにしても、それは教訓話ぐらゐのものにしか役に立たなかつた。

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絶えず芸術的気分の醸されてゐるところにのみ、また絶えず燃焼的態度を持してゐるところにのみ、芸術の黒猫は来て坐る。そしてその空気が稀薄になれば、いつでも足音も立てずにそつと出て行つて了ふ。

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M・K君は言つた。『文章とか、技巧とかは何うでも好いから、もつと力の籠つた本当な素朴なものは出ないでせうかな……。小利口な面白半分の作にはもうあきあきしました』私も至極同感だ。

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私はまたある人に言つた。『君も酒仙だし、僕も曾つてその一人だつたから、よく飲み込めると思ふが、あの葛西善蔵の『蠢く者』はあれは管ぢやないか。酔払ひが管を巻いてゐるんぢやないか。面白いと言へばそれが面白いのだが、あれからアルコール中毒をさし引けば、ゼロになりはしないかね? ……しかし、それも僕が酒仙でなくなつたのでそれでさういふことをいふのかも知れないけれどもね?』

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酒をよして一年ほどした後で、私は自分で自分に言つた。『不思議な気がするな。今まで自分の書いたものは、皆な酒が書かせたのだな? ……あのセンチメンタルは皆酒が言はせたのだ……。本当の自分ではなかつたのだ……』果してその本当の自分の方が好いか酒が書かしたものの方が好いか、それは自分にもちよつとわからないが、兎に角さう思つたことを私は繰返した。

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四月の小説では、何と言つても、あの島崎藤村の『三人』を私は取る。あの若々しさは? あの水々しさは?

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