島からの帰途
本文約4,400字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
大学生のKとBは、休暇で滞在した島をめぐり、恋愛感情を抱く女性・多喜子への思いを胸に秘めて歩く。Kに対し劣等感と嫉妬を抱くBは、荒れ狂う海上で自らの心と向き合う。帰りの小船で突如として暴風雨に見舞われ、荒波に翻弄される中で、二人は過酷な自然の脅威に直面する。本作は、友情と愛憎の狭間で葛藤する青年たちが、逃れられない運命と海という極限状態の中で繰り広げる心理と情景を描く。
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KとBとは並んで歩きながら、
『向うから見たのとは、感じがまた丸で違ふね?』
『本当だね……』
『第一、こんな大きな、いろいろなもののあるところとは思はなかつた。医者もあれば、湯屋もある。畠もある。野菜だツて決して少い方ではない。立派な別天地だ……。こゝなら配流の身になつても好いね?』
『一月ぐらゐ好いね……』
『いや、僕はもつと長くつても好い。一年ぐらゐかういふ世離れたところにじつとしてゐたい? 世の中の覊絆からすつかり離れて?』
『本当だ……それが出来れば結構だけども……。とても出来さうにもないね? さうでなくつてさへ、何ぞと言ふと、都に帰りたくなるんだからね……』
かう言つたBの言葉がKの胸にはかなりに強く響いた。そんなことを口にこそ出して言つてゐるけれども、常に、一刻も忘れられずに、その心が都に向つて靡いて行つてゐる身であることをKは思ひ起した。現に、昨夜の日記にも、かの女を思つた五行の詩を書きつけたことを思ひ起した。
『でも出来ないことはないと思ふね?』
Kはわざとその心の底の秘密をかくすやうにして言つた。
『さうかな……? 君に出来るかな? 出来ればえらいな……』Bは笑つて、『本当にかういふところに来てゐれば、僕のためにはなるな』
二人の歩いてゐるところは、それは丁度島の脊梁に当つてゐるやうな路だつた。右にも左にも海は見えた。凄じく鳴つて押寄せて来て、そして脆く砕けて行つてゐる波濤が見えた。遠くに帆が一つ漂つてゐるのが見えた。
『あれがT島かね?』
『さうだ……』Kはかねて一度来たことがあるので、そこらのことによく通じてゐた。
『かなり遠いね?』
『三里はあるね。何しろ、あの島は三重県だから、巡査でも、ポストでも、皆なT島の町からやつて来るんだからね? 場合に由ると、一週間も交通の絶えることがあるさうだ……』別にBは訊きもしないのにKはかう話した。
『B島はあの向うにちよつと見える奴かね?』
Bは指さした。
『さうだ。あれがS島だ。あれから志州の鳥羽までは、まだ二里ぐらゐあるんだからな……』
『小船で渡るんぢや中々大変だね?』