初冬の記事
本文約4,400字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
初冬の季節に庭の紅葉や寒さを慈しみながら、作者が日々の中で感じた出来事を綴る。姉妹の健気なやり取りや、講演先での泥濘、執筆中の長編小説への苦心、歌集への思いなどを淡々と回想する。また、近隣の稲荷の再興に心血を注ぐ女性や、朝鮮の軍地から遠路を帰省した弟との語らいなどを通じ、社会の出来事や人間に対する深い思索を巡らせる。季節の移ろいとともに流れる私的な日常と、そこから広がる多様な人間模様を記した随筆である。
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また好きな初冬が来た。今年は雨が多いので、勤めに出かける人などは困つたらうと思ふ。しかしその雨の故か、今年の紅葉の色は非常に好い。私の庭のばかりでない、何処に行つても、濃やかな紅の色彩が何とも言はれない。梧桐の葉などは、いつもならば、黒くしなびてカラ/\と一風に散つて了ふのであるが、今年はそれすら美しく黄ばんだ色を見せてゐる。
山茶花が厚い深い緑葉の中に隠見してゐるさまも絵に似てゐる。雨に好し、晴に好し、朝に好し、夕暮に好しといふのは此花である。彼岸以後は一雨毎に寒くなつて行くと言ふが、この寒くなつて行く具合が好い、気分が好い。『寒いなア、馬鹿に寒くなつたな、火燵でもやるかな』などと言つて、塞いで置いた炉を明ける。丁度其時分、今年の夏を過した富士見の高原あたりでは、雪が凄じく降り頻つてゐたのである。上諏訪にも十五日には雪が降つた。此間、富士見のK君が来た時には、『もう八ヶ岳は半分雪だ』と言つてゐたが、今ではすつかり真白になつて了つたのであらう。
ある日は、午後から雨になつた。女の児達は蝙蝠傘は持つて行つてゐるが、降りが強いので、帰るのが大変だらうなどと言つて母親が心配した。姉が九つで、妹が八である。と、妹が先に雨をついて帰つて来た。姉の下駄を持つて行つてやると約束したと言つて、自分で持つて行つてやる。それと行違ひに姉が帰つて来た。今度は姉が妹のことを心配した。そして又迎ひに行つた。そしてまた行違ひになつた。姉は降頻る雨の中を泣きながら帰つて来た。姉妹の情などと言ふものは面白いものだ。