本文へ移動
TORENDIA

父親

本文約4,800字 ・ 読了時間 約10分

田山録弥

速度
🎧 父親 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 7

一

多喜子は六歳の時に此処に来たことがあるさうであるけれども、さうした覚えは少しもなかつた。石段になつてゐるやうな坂の両側に宿屋だの土産物を売る店だのが混雑と並んでゐて、そのところところから温泉の町のしるしである湯気がぱつと白く夜の空気を隈取つた。

『不思議ね。ちつとも覚えてゐないわ』

『さう……』

姉の政子はそんなことは何うでも好いといふやうに素気なく言つて、ぐんぐん石段を登つて行つた。

田山録弥の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本