TRENDIA CLASSIC

弟を葬る

徳富蘇峰

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皆様、兄が弟を葬ると云ふ事は極めて不自然な事であります。又た其葬る場所に於て、兄が弟に就てお話をすると云ふ事も、恐らくは不自然の事であらうと思ひます。併し私が茲に一言申しますことは、単に御座なり義理一片の弔辞ではないのであります。茲に立ちまして、弟の遺骸の前に立ちまして、併せて皆様の前に立ちまして、一言申しますることは、是は弟の志であらうと思ひます。

弟は死する時に、私の手を執りまして、後の事はよろしく頼むと申しました。其のよろしく頼むといふことの中には、少なくとも今日此の場合に私が一言をすると云ふ事も、加はつて居たであらうと信ずるのであります。

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弟の文学上に於ける位地は、天下の公論がありまして、私が茲に彼れ是れ申す必要は無いと思ひます。併しながら其の得たる所の位地は、私共の父が与へたのでもなく、兄たる私が与へたものでもなく、是は弟の独自一己の力を以て開拓したる所の位地であります。さうして是までにやり上げたと云ふことは、私の父も、私も、全く意想外の事であつたのであります。この一事だけは私は皆様に告白し、併せて私の亡き父の申す分迄告白して置きたいと思ふのであります。

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弟の著作は先程略歴に述べてある通りであります。其外にもまだ沢山あります。例へば『コブデン』、『ブライト』、『グラツドストーン』、『ゴルトン将軍』などと云ふ様な本もあります。其他色々の飜訳もあります。併しながら弟の人物、弟の性格と云ふ様なことは、弟の作りました、若しくは書きました所の多くの文字を透して御覧になつたのみでは十分でないと思ふのであります。此の場合に於て私は其辺の事も一言申上げて置く必要を感じます。

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