TRENDIA CLASSIC

浮浪学生の話

マルセル・シュヲブ Marcel Schwob

🎧 聞ける化(音声で聴く)
朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう
1 / 2

抑われは寄辺ない浮浪学生、御主の御名によりて、森に大路に、日々の糧を乞ひ歩く難渋の学徒である。おのれ今、忝くも尊い光景を観、幼児の言葉を聞いた。われは己が生涯のあまり清くない事を心得てゐる、路の傍の菩提樹下に誘惑に負けた事も知つてゐる。偶われに酒を呑ませる会友たちの、よく承知してゐる如く、さういふ物は滅多に咽喉を通らない。然しわれは人を傷け害ふ党とは違ふ。幼児の眼を剞り抜き、足を断ち、手を縛つて、これを曝物に、憐愍を乞ふ悪人どもが世間にある。さればこそ今この幼児等を観て、心配いたすのだ。いや勿論、これには御主の擁護もあらうて。自分の言ふことは、兎角出放題になる、胸一杯に悦があるので、いつも口から出まかせを饒舌る。春が来たといつては莞爾、何か観たといつては莞爾、元来があまり確りした頭でないのだ。十歳の時、髪剃を頂いたが、羅甸の御経はきれいに失念して了つた。わが身はちやうど蝗虫のやうだ、こゝよ、かしこよと跳回る、唸つて歩く、また或時は色入の翅を拡げて、小さな頸の透きとほつて、空な処をみせもする。伝へ聞く聖約翰は荒野の蝗虫を食にされたとか、それなら余程食べずばなるまい。尤も約翰様と吾々風情とは人柄が違ふ。

マルセル・シュヲブ Marcel Schwobの他の作品