にんじん
本文約98,700字 ・ 読了時間 約198分
あらすじ(AIが作成しました)
髪が赤く雀斑があることから「にんじん」と呼ばれる末っ子の少年は、家族から疎まれ、過酷な仕打ちや冷ややかな視線の中で暮らしている。ルピック夫人や兄のフェリックス、姉のエルネスチイヌに囲まれ、時に鶏舎の戸締めや獲物の処置といった困難な役割を押し付けられる。家族間の複雑な関係の中で、少年は孤独や反発を抱えながら、周囲の影に怯えつつも、どこか自分を律しようとする日常を描く。
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鶏
ルピック夫人はいう――
「ははあ……オノリイヌは、きっとまた鶏小舎の戸を閉めるのを忘れたね」
そのとおりだ。窓から見ればちゃんとわかるのである。向こうの、広い中庭のずっと奥のほうに、鶏小舎の小さな屋根が、暗闇の中に、戸の開いているところだけ、黒く、四角く、くぎっている。
「フェリックスや、お前ちょっと行って、閉めて来るかい」
と、ルピック夫人は、三人の子供のうち、一番上の男の子にいう。
「僕あ、鶏の世話をしにここにいるんじゃないよ」
蒼白い顔をした無精で、臆病なフェリックスがいう。
「じゃ、お前は、エルネスチイヌ?」
「あら、母さん、あたし、こわいわ」
兄貴のフェリックスも、姉のエルネスチイヌも、ろくろく顔さえ上げないで返事をする。二人ともテーブルに肱をついて、ほとんど額と額とをくっつけるようにしながら、夢中で本を読んでいる。
「そうそう、なんてあたしゃ馬鹿なんだろう」と、ルピック夫人はいう――「すっかり忘れていた。にんじん、お前いって鶏小舎を閉めておいで」
彼女は、こういう愛称で末っ子を呼んでいた。というのは、髪の毛が赤く、顔じゅうに雀斑があるからである。テーブルの下で、何もせずに遊んでいたにんじんは、突っ立ちあがる。そして、おどおどしながら、
「だって、母さん、僕だってこわいよ」
「なに?」と、ルピック夫人は答える――「大きななりをして……。嘘だろう。さ、早く行くんですよ」
「わかってるわ。そりゃ、強いったらないのよ。まるで牡羊みたい……」
姉のエルネスチイヌがいう。
「こわいものなしさ、こいつは……。こわい人だってないんだ」
と、これは兄貴のフェリックスである。
おだてられて、にんじんは反り返った。そういわれて、できなければ恥だ。彼は怯む心と闘う。最後に、元気をつけるために、母親は、痛いめに遭わすといい出した。そこで、とうとう――
「そんなら、明りを見せてよ」
ルピック夫人は、知らないよという恰好をする。フェリックスは、鼻で笑っている。エルネスチイヌが、それでも、可哀そうになって、蝋燭をとりあげる。そしてにんじんを廊下のとっぱなまで送って行く。
「ここで待っててあげるわ」