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鶏
ルピック夫人はいう――
「ははあ……オノリイヌは、きっとまた鶏小舎の戸を閉めるのを忘れたね」
そのとおりだ。窓から見ればちゃんとわかるのである。向こうの、広い中庭のずっと奥のほうに、鶏小舎の小さな屋根が、暗闇の中に、戸の開いているところだけ、黒く、四角く、くぎっている。
「フェリックスや、お前ちょっと行って、閉めて来るかい」
と、ルピック夫人は、三人の子供のうち、一番上の男の子にいう。
「僕あ、鶏の世話をしにここにいるんじゃないよ」
蒼白い顔をした無精で、臆病なフェリックスがいう。
「じゃ、お前は、エルネスチイヌ?」
「あら、母さん、あたし、こわいわ」
兄貴のフェリックスも、姉のエルネスチイヌも、ろくろく顔さえ上げないで返事をする。二人ともテーブルに肱をついて、ほとんど額と額とをくっつけるようにしながら、夢中で本を読んでいる。
「そうそう、なんてあたしゃ馬鹿なんだろう」と、ルピック夫人はいう――「すっかり忘れていた。にんじん、お前いって鶏小舎を閉めておいで」
彼女は、こういう愛称で末っ子を呼んでいた。というのは、髪の毛が赤く、顔じゅうに雀斑があるからである。テーブルの下で、何もせずに遊んでいたにんじんは、突っ立ちあがる。そして、おどおどしながら、
「だって、母さん、僕だってこわいよ」
「なに?」と、ルピック夫人は答える――「大きななりをして……。嘘だろう。さ、早く行くんですよ」
「わかってるわ。そりゃ、強いったらないのよ。まるで牡羊みたい……」
姉のエルネスチイヌがいう。
「こわいものなしさ、こいつは……。こわい人だってないんだ」
と、これは兄貴のフェリックスである。
おだてられて、にんじんは反り返った。そういわれて、できなければ恥だ。彼は怯む心と闘う。最後に、元気をつけるために、母親は、痛いめに遭わすといい出した。そこで、とうとう――
「そんなら、明りを見せてよ」
ルピック夫人は、知らないよという恰好をする。フェリックスは、鼻で笑っている。エルネスチイヌが、それでも、可哀そうになって、蝋燭をとりあげる。そしてにんじんを廊下のとっぱなまで送って行く。
「ここで待っててあげるわ」