土地の便り
フィリップ一家の家風
一
フィリップ一家の住居は、おそらく、村じゅうでいちばん古い住居である。藁ぶきの屋根は、苔が生えて、処まんだらに修繕をしたあとが見え、庇が地べたの上に垂れ、入口は頭がつかえるほどで、小さな十字窓は、てんから開かないようにできている。これで見ると、どうしても、二百年ぐらい経った代物としか思えない。フィリップのお神さんは、その点、気がひけるらしい。
「貧乏も、よっぽど貧乏じゃなくっちゃね、これをこのまんまうっちゃらかしとくなんて……」
「どうして? 僕は、とてもいいと思うね、この家」
すると、彼女は、
「壁にさわると壁土が指にくっついて来るんですからね」
フィリップが言うには、
「だから、小巴里新報の古いので、穴をふさげばいいじゃないか。誰も、それをするなとは言やしない」
「お金持の住むような家が欲しいわけじゃないのさ。さっぱりしてさえすりゃいいんだから。これで、いくらか溜めてでもありゃ、こんなぼろ家でもすぐに手入れぐらいはするんだけれど」
「それは、よしたほうがいい、おばさん。まったくすてきだもの、この家は」
「いつぺしゃんこになるかわからないね」
「心配せんでいい。お前が葬られるまでは大丈夫」
「これが頭の上へ落ちて来てかい」
こう返事をしたが、誰も笑わないので、自分ひとりで笑う。
「何も心配することはないさ」と、わたしは言う――「自分の家を軽蔑しちゃいけない。それこそとんだ間違いだ。この家は、たいした値打ちがあるんだからね。御先祖から伝わった家じゃないか。あんたは、亡くなった人を粗末にはしないだろう。だから、亡くなった人から伝わったものは、大事に取っとくといい。あんたの家は、古い時代の思い出なんだ。神聖な形見なんだ」
「そりゃまあそうですね」――フィリップのお神さんは、もう、うれしそうに、こう言うのである。