かあいそうな娘さんたちよ、 夕方の町を二三人ずつ群を成して、 いかめしい煉瓦造りの裏門から、 吐きだされてゆく娘さんたちよ、 おしろいをきれいに顔につけて、 折目のただしい海老茶の袴をはき、 白足袋に日和下駄をはいてはいるけれど、 手に抱えている風呂敷包みの中は、 お弁当のからばこ、白い事務服、それから紅い鼻緒の上草履のようなもの。 そうしてたのしそうにお友達と世間話や未来の夢を語りながら、 町をあるいている間はどんなにたのしかろ、 しかしわかれわかれに家へかえれば、 たくさんの妹や弟、 お父さんの門衛姿はまだ帰っていず、 座敷にはお母さんの内職仕事がちらばり、 せまい六畳のせめてもの机のある辺も、 子供のおもちゃでめちゃめちゃ。 あなたはそのときどんなに空想と現実との間隔の遠いのを感ずるでしょう、 呉服屋の飾窓、 小間物屋の飾窓、 あなたはさぞあの大柄な浴衣がほしかろ、 青磁に百合の縫の半襟がほしかろ、 しかしかあいそうな夕方の娘さんたちよ、 あなたはスケベイな課長の誘惑や、 上役の好かないイロ眼を怖れなければなりません、 かあいそうな夕方の若い娘さんたちよ。
あなたは鼠色の夏服を着ているけれど、 あなたはそれをジカにシャツの上だ、 しかしあなたにはカラーも、ネクタイも似合わない、 あなたは素足で古びた駒下駄をはいている。 なんとあなたの黒い顔をしていることよ、 なんとあなたのツヤのない顔をしていることよ、 ビールで肥った赤ら顔の工場主とは大違いだ、 あなたは急ぎ足で一心に夕方の家へかえる、 おかみさんと、この春生れたばかりの男の子の待っている家へ。 なんとあなたのまじめな、真剣な、どんな苦痛にも堪え得られそうな顔よ、 その男らしい、しかしすこし曇ってやつれた顔よ、 そして太い腕と巌丈な手よ、 つい十年前まで完成していなかった日本の労働者の立派なタイプよ、 私はたった活動写真でいっぺん西洋のストライキを見たばかりだ、 しかしそのなかにはあなたのような真剣な顔がたくさんいた。