TRENDIA CLASSIC

錢形平次捕物控

野村胡堂

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「親分の前だが、女日照の國には、いろんな怪物がゐるんですね」

八五郎がまた、親分の平次のところへ、世上の噂を持込んで來ました。江戸八百八町にバラ撒かれてゐる下つ引や手先から集まつた資料が、八五郎の口から、少しばかり誇張されたり潤色されたり、面白可笑しく編輯されて、平次の耳へ傳わつて來るのです。

「女旱魃の國てえのは何處だえ、――まさか傳馬町の大牢ぢやあるめえな」

平次は相手欲しさうでした。外は空つ風、暦の上は春でも梅の花までがかじかみさうな、薄曇の寒い日です。

神田明神下の平次の家も、この二三日は御用が暇な上懷中までが霜枯れで、外へ出て見る張合もありません。煙草の五匁玉をあらかた吸ひ盡くして、出がらしの茶ばかり呑んでゐるところへ、八五郎のガラツ八が、秩父颪と一緒に飛込んで來て、女護が島の住人見たいな、高慢なことを言ふのです。

「そんなイヤなところぢやありませんよ、場所は大川端町、あの邊では顏のきいた、名取屋三七郎といふのを親分御存じでせう」

「大層な男だといふが、金儲けはうまい相だな」

「その名取屋三七郎は、名古屋山三ほどの良い男の氣でゐるから大したもので」

「自惚れは罪がなくて宜いよ」

「ところでその内儀さんのお縫も惡くねえ女だが、妾のお鮒と來た日にや、品川沖まで魚が取れなくなるといふきりやうだ」

「妙な譬へだな」

「あんまり綺麗だから、お天氣の良い日はピカ/\して、その照り返しで大川の魚は皆んな逃げる」

「馬鹿なことを言え」

「魚が逃げる位だから、人間の男だつて、利口なのは寄り付かない。名取屋三七郎の[#「名取屋三七郎の」は底本では「名取屋三五郎の」]家の兩隣には、三軒長屋が二た棟あるが、不思議なことに皆んな男世帶だ、――三七郎の妾のお鮒が綺麗なんで、女といふ女は住みつかないんだ相ですよ」

「お前の話は相變らず馬鹿々々しいな」

「まア、聽いて下さいよ、話はこれから面白くなるんで」

「フーム」

「三軒長屋が二つ、その一つは北の方にあつて、按摩の年寄夫婦が一と組と、浪人波多野虎記と、小博奕を渡世にしてゐる、勇吉といふ若いのが住んでゐる、按摩の女房の婆さんなんか女のうちに入らない」

「――」

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