錢形平次捕物控
本文約13,400字 ・ 読了時間 約27分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の町で贋小判が出回る事件が発生する。町奉行所の密命を受けた銭形平次は、被害にあった常大寺の千両箱すり替え疑惑を調査する。寺院の賽銭を両替した樽屋金兵衛が関与を疑われる中、平次は精巧な仕掛けられた箱の謎と犯行の手口を解き明かし、金兵衛らが関与した一連の悪事を追及する。
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一
「親分、この頃妙なものが流行るさうですね」
八五郎がそんな話を持込んで來たのは、三月半ばの、丁度花もおしまひになりかけた頃、浮かれ氣分の江戸の町人達も、どうやら落着きを取戻して、仕事と商賣に精を出さうと言つた、殊勝な心掛になりかけた時分でした。
「流行物と言へば、大道博奕に舟比丘尼、お前の頭のやうに髷節を無闇に右に曲げるのだつて流行物の一つらしいが、どうせろくなものは無いな」
「そんな手輕なものぢやありませんよ、親分も聽いたでせう、彼方此方から、小判の贋物が出るといふ話」
「そんな噂もあるやうだな」
「大判小判などといふものは、どうせこちとらの手に渡る代物ぢやありませんがね、あんまり世間の評判が高いから、ちよいと親分の耳に入れて置かうと思ひましてね」
斯んな市井の噂をかき集めて來るのが、八五郎の得意の藝當で、平次に取つては、まことに有難い特技だつたのです。
「八丁堀の旦那方からも、内々でお達しがあつたよ、天下の通用金の贋を、うんと拵へる場所があるに違げえねえ、手一杯に搜して見ろ――とな」
「それで見當でもつきましたか」
「少しもわからねえのさ、お前の言ひ草ぢやねえが、贋でも小判となると、滅多にこちとらの手には入らない」
平次は苦笑ひするのです。一兩小判はざつと四匁、元祿以前の良質のものは、今の相場にして骨董値段を加へると何萬圓といふことになるでせう。
徳川時代の刑事政策は、すべての犯罪に對して、嚴罰主義で臨みましたが、わけても不正桝――即ち八合判と、贋金――つまり銅脉と言はれたものゝ僞造行使は、藩によつては極刑中の極刑を以つて罰した例もあります。
「だから、お行儀よく坐つて居ても、こちとらへは小判なんか持つて來る奴も無いから、少し歩いて見ようぢやありませんか、贋金をつかまされた家といふのを、二三軒聞き込んで來ましたよ」
「そいつは善いあんべえだ、どうせ手を着けなきやならない、それを門並歩くとしようか」
平次は、たうとう此事件に神輿をあげることになつたのです。
「最初は――と言つても、贋金は江戸中に散つて居ますよ、今日は淺草で使つたと思ふと、翌る日は本郷だ」