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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約8,900字 ・ 読了時間 約18分

あらすじ(AIが作成しました)

川越の名主の娘お吉が、芝居見物の帰りに神隠しのような形で姿を消す。名主の庄司忠兵衛は江戸の御用聞である銭形平次に捜索を依頼する。平次は聞き込みを通じ、お吉が芝居役者と密かに関わりを持っていた背景や、木戸番の種吉の複雑な心情に迫る。平次は独自の推理で事件の真相へと近づき、騒動を収束させて江戸へと戻っていく。

野村胡堂

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一

「八、その十手を見せびらかすのを止してくれないか」

「へエ、斯うやりや宜いんでせう。人に見せないやうに」

親分の平次に言はれて、ガラツ八の八五郎はあわてゝ後ろ腰に差した十手を引つこ拔くと、少々衣紋の崩れた旅疲れの懷中にねぢ込むのです。

「だらしがねえなア、房が思はせ振りにハミ出して居る上に、十手の小尻が脇の下に突つ張つて居るぢやないか」

「へエ、まだいけませんかね」

「此處は江戸の眞ん中ぢやねえ、武州忍、阿部豊後守樣十萬石の御城下だ、そんな風をして、後生大事に懷中を押へて歩くと、請合牛蒡泥棒と間違へられる」

「冗談でせう、いかに武藏の國だつて、房の附いた牛蒡なんてものは、ありやしませんよ」

平次と八五郎は、郊外の秋色を愛で乍ら――といふと洒落れて聞えますが、實は川越在の名主、庄司忠兵衞の餘儀ない頼みで、十五里の道を、ブラリブラリと二日がゝりで、町から三里ばかり、赤トンボとイナゴに迎へられ乍ら、どうやら陽のあるうちに、目的の家に着いたのです。

迎へてくれたのは、主人の忠兵衞五十二三、分別者で評判の良い中老人ですが、田舍名主らしく何んとなく權高なところがあります。でも、事件は獨り娘の生命に關はることで、さすがに見識も見得もかなぐり捨て、

「や、錢形の親分、待つて居ましたよ、遠いところを、飛んだ無理を言つて――」

などと如才もありません。

足を洗つて奧へ通されると、内儀のお縫が待ち構へて、お茶よ、お菓子よとあわたゞしいことです。

「それより、先づ、お孃さんが、姿を隱したといふ一埒を承りませう。なアに、疲れたと言つてもたつた十五里の道を、二日で歩いた遊山旅で、時候が良いから、ろくに汗も掻きやしません。この野郎がイキの惡い金魚見たいに、口をパク/\させてゐるのは、少し腹が減つてるだけのことで」

八五郎の表情を讀んで、平次は遠慮のないことを言ふと、

「それは氣が付かなかつた、陽の暮れるのを待つて一杯つけ乍らと思つて居たが、それぢや兎も角も」

主人の忠兵衞が指圖すると、内儀のお縫がお勝手へ飛んで行つて、何が無くとも冷飯に炙り魚、手輕な食事になつてしまひました。

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