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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約14,500字 ・ 読了時間 約30分

あらすじ(AIが作成しました)

豪商の娘お玉は、武家への復帰を望む浪人寺西右京の息子習之進へ、千両の持参金と共に嫁ぐ。しかし生活は困窮し、家には娘分のお駒とお鐵が同居していた。ある日、虫干し中の屋敷で鏡台の前にいたお駒が血だらけで発見される。さらに別の事件も重なり、平次が真相を追うことになる。持参金を巡る人々の思惑と、お玉が抱える複雑な家庭の事情が交錯し、物語は思わぬ方向へと展開する。江戸の町で起こる事件の謎と、背後に渦巻く人間模様を描く時代小説。

野村胡堂

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一

「親分の前だが、あつしも今度ばかりは、二本差が羨ましくなりましたよ」

ガラツ八の八五郎は、感にたへた聲を出すのでした。カラリと晴れた盆過ぎの或る日、平次は盛りを過ぎた朝顏の鉢の世話を燒き乍ら、それを手傳はうともせずに、縁側から無駄を言ふ、八五郎の相手をして居ります。

「おや、妙なことを言ふぢやないか、お前は武家と田螺和は大の嫌ひぢやなかつたのか」

さう言ふ平次は、朝顏の世話に餘念もありません。

「好きにもなるだらうぢやありませんか。飯田町から番町、神田へかけて、第一番といふ娘を手にいれて、その上に持參が千兩」

「いづれはヒビの入つた娘だらう、てゝ無し子を生んだとか、筋の惡い男と驅け落ちをしたとか」

「飛んでも無い」

「夜な/\首が長くなつて、行燈の油を舐める藝當があるとか」

「そんな藝當なんかありやしません。綺麗で利發で、そりや氣立ての良い娘ですよ」

「泣かなくたつて宜い。その娘がどうしたんだ?」

「相手もあらうに、中坂の浪人者、寺西右京の伜で、業平習之進と言はれて居る男つ振りだが、評判のよくねえのへ小判で千兩の持參で嫁入はひどいでせう」

「一と箱は少し大きいな。人三化七の娘でも、持參は百兩と昔から相場のきまつたものだ」

「それがその千兩で、――無瑾で可愛らしくて、申分の無い娘に、千兩の持參とは何んといふことです」

「俺が叱られて居るやうだが、先づ話の筋を通してから、怒るなり泣くなり、お前の勝手にするが宜い」

「へエ? さう言へば、まだ何んにも言はなかつたやうで」

「呆れた野郎だ」

平次は八五郎と並んで縁側に腰をおろして、泥だらけになつた手で、器用に煙草をつまみました。一本の煙管が、客にも主人にも共通です。

「元飯田町の質屋、紀の國屋信兵衞といふのを親分は御存じでせう」

「大層な身代ださうだな」

「その信兵衞は腹の底からの町人ですが、飯田町といふ場所で、武家の客を相手にして、親代々質屋を渡世にして居たら、人間の性根はどんなことになると思ひます」

「骨が折れることだらうよ」

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