錢形平次捕物控
本文約15,300字 ・ 読了時間 約31分
あらすじ(AIが作成しました)
檜物町の踊の師匠・小夜菊は、複数の男から言い寄られる不思議な魅力を持つ美女。彼女は身の危険を感じ、用心棒として八五郎を頼む。ある日、稽古場で小夜菊が刺殺されているのが発見される。現場の状況から自害を疑う周囲をよそに、銭形平次は不自然な点を見つけ、他殺であると見抜く。平次は犯行の背後に潜む計画的な工作を暴き、犯人の正体と動機を明らかにしていく。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「親分、折入つてお願ひがあるんですが」
ガラツ八の八五郎は、柄にもなく膝小僧を揃へて、斯う肩を下げ乍ら、小笠原流の貧乏搖ぎをやつて見せるのでした。
「心得てゐるよ、言ひわけに及ぶものか、その代りたんとは無えが」
錢形平次は、後ろ斜めに、障子の隙間からお勝手を覗いて、其處で晩の仕度をしてゐる女房のお靜に、何やら合圖をするのです。
それを見ると、お靜は心得たもので、帶の間から財布を拔いて、そつと平次の方へ滑らせました。親分子分の間でも、切出し憎いことを切出した八五郎に、少しでも恥を掻かせまいとする、それは貧乏馴れのした、無言劇の一と齣だつたのです。
「冗談ぢやありませんよ、親分」
八五郎は膝の上へ置かれた、女物の財布を見ると、膽をつぶして二つの掌を振りました。八つ手の葉つぱのやうな大きい手が、互ひ違ひに動いて、くつろげた胸毛のあたりに、秋風を吹き起さうといふ素晴らしいジエスチユアです。
「本當に冗談ほどしか入つちやゐないよ、遠慮することは無い、取つて置きなよ」
「あつしはね、親分、お小遣が欲しくて來たわけぢやありませんよ、憚り乍ら金なんざ――小判といふものを、馬に喰はせるほど持つてゐますよ」
「そいつは豪儀だ、恥を掻かせて濟まなかつたね。いづれそのうちに、小判と言ふ飼葉を喰ふ、白粉を附けた馬でも見せて貰はうか」
「まア、それ程の景氣だと思つて下さいよ、あつしのお願ひといふのは、大したことぢやありませんがね」
「お小遣でなきや、お前を四角に坐らせるのは何んだえ」
「外ぢやありませんがね、あつしに用心棒に來てくれといふ家があるんで、長い間ぢやない、ほんの半月もすれば、身體のあくことで――」
「まさか、賭場や興行物ぢやあるまいな」
「そんなものぢやありませんが、唯、少しばかり」
八五郎は小鬢をポリ/\と掻いて言ひ澁るのです。
「何が少しばかりなんだ、まさか金の番を頼まれたわけぢやあるまいね」
「金の番なら威勢よく斷りますがね、何しろ相手は、人に物を頼んで、イヤとは言はせない人間なんで」
「何處の殿樣だえ、それは? 泣く子と地頭とはいふが、――」