錢形平次捕物控
本文約14,300字 ・ 読了時間 約29分
あらすじ(AIが作成しました)
元日の昼下がり、銭形平次は子分の八五郎と共に、不自然な様子で賑わう料理屋「さざなみ」へ赴く。店内の異変や正月のお年玉として配られた手拭の奇妙な模様に疑問を抱いた平次は、その模様を南部の盲暦になぞらえて解読し、特定の期日と場所を突き止める。平次は料理屋での振る舞いや道具屋を装う怪しげな一団への潜入捜査を通じて、江戸の五街道を荒らす大規模な盗賊団の摘発へと物語の糸口を繋いでいく。
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一
元日の晝下り、八丁堀町御組屋敷の年始廻りをした錢形平次と子分の八五郎は、海賊橋を渡つて、青物町へ入らうと言ふところでヒヨイと立止りました。
「八、目出度いな」
「へエ――」
ガラツ八は眼をパチ/\させます。正月の元日が今始めて解つた筈もなく、天氣は朝つからの日本晴れだし、今更親分に目出度がられるわけは無いやうな氣がしたのです。
「旦那方の前ぢや、呑んだ酒も身につかねえ。丁度腹具合も北山だらう、一杯身につけようぢやないか」
平次は斯んな事を言つて、ヒヨイと顎をしやくりました。成程、その顎の向つた方角、活鯛屋敷の前に、何時の間に出來たか、洒落た料理屋が一軒、大門松を押つ立てゝ、年始廻りの中食で賑はつてゐたのです。
「へエ――、本當ですか、親分」
ガラツ八の八五郎は、存分に鼻の下を長くしました。ツヒぞ斯んな事を言つたことの無い親分の平次が、與力笹野新三郎の役宅で、屠蘇を祝つたばかりの歸り途に、一杯呑み直さうといふ量見が解りません。
「本當ですかは御挨拶だね。後で割前を出せなんてケチな事を言ふ氣遣ひはねえ。サア、眞つ直ぐに乘り込みな」
さう言ふ平次、料理屋の前へ來ると、フラリとよろけました。組屋敷で軒並甞めた屠蘇が、今になつて一時に發したのでせう。
「親分、あぶないぢやありませんか」
「何を言やがる。危ねえのは手前の顎だ、片附けて置かねえと、俺の髷節に引つ掛るぢやないか」
「冗談でせう、親分」
二人は黒板塀を繞らした、相當の構の門へ繋がつて入つて行きました。
眞新しい看板に「さざなみ」と書き、淺黄の暖簾に鎌輪奴と染め出した入口、ヒヨイと見ると、頭の上の大輪飾が、どう間違へたか裏返しに掛けてあるではありませんか。
「こいつは洒落て居るぜ、――正月が裏を返しや盆になるとよ。ハツハツ、ハツハツ、だが、世間附き合ひが惡いやうだから、ちよいと直してやらう」
平次は店の中から空樽を一梃持出して、それを踏臺に、輪飾りを直してやりました。
「入らつしやい、毎度有難う存じます」
「これは親分さん方、明けましてお目出度うございます。大層御機嫌で、へツ、へツ」
帳場に居た番頭と若い衆、掛け合ひで滑らかなお世辭を浴びせます。