錢形平次捕物控
本文約16,000字 ・ 読了時間 約33分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の銭形平次は、泉屋一家を執拗に襲う強盗の解決を娘御用聞と知られるお品から依頼される。強盗は風のように現れては逃走する手練れで、平次は配下の八五郎を差し向け監視させる。一連の犯行は鳥越の笹屋宗太郎の弟・宗次によるものと判明する。宗次は強盗の隠れ蓑として兄になりすまし、密かにお品を狙っていた。ある晩、お品を拉致し舟で逃走を図る犯人を、平次と利助らが川上で包囲する。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一
「親分、お願ひがあるんですが――」
お品は斯う切り出します。石原の利助の一人娘、二十四五の年増盛りを、『娘御用聞』と言はれるのはわけのあることでせう。
「お品さんが私に頼み――へエ――それは珍らしいネ、腕づくや金づくぢや話に乘れないが、膝小僧の代りにはなるだらう。一體どんな事が持上がつたんだ」
錢形平次は氣輕にこんな事を言ひました。お品の話を、出來るだけ滑らかに手繰り出さうといふのでせう。何時でも、さう言つた心構へを忘れない平次だつたのです。
「お聽きでせう? 藏前の札差に強盜の入つた話を――」
「聽いたよ。たつた一人だが、疾風のやうな野郎で、泉屋の一家ばかり選つて荒して歩くといふ話だらう」
二た月ほど前から虱潰しに泉屋一家を荒して歩く曲者、――どんなに要心を重ねても、風の如く潜り込んで、かなり纒つた金をさらつた上、障る者があると、恐ろしい早業で、大根か人參のやうに斬つて逃出す強盜のことは、平次もよく承知して居ります。
「お父つさんはあの通りのきかん氣で、身體が言ふことをきかないくせに、八丁堀の旦那方に小言を言はれると、ツイ請合つて歸つたのだ相です。――泉屋一家で、荒し殘されたのは、あとたつた二軒、それがやられる迄には、きつと縛つてお目にかけますつて――」
「――」
「今度逃がせば、十手捕繩を返上しなければなりません、どうしませう親分」
「成程、それは心配だらう。どんな手口だか私も知らないが容易の捕物ぢやあるまい」
「よく霽れた月の無い晩に限つて押込みます、今晩あたりも又何か始まるでせう。お父つさんは一人で威張つて居ますが、子分と言つても役に立つのは二三人――まさか私が出かけるわけにも行かず、素人衆は幾人手傳つて下すつても、本當に氣が廻らないから、何時でも網の目を脱けるやうに逃げられてしまひます。――親分に來て頂くと申分がありませんが、それでは又父さんが氣を惡くするかも知れず」
お品は淋しさうでした。平次とすつかり融和して居るやうでも、利助にはまだ年配の誇りと、妙に頑固な意地があつたのです。