一
「親分、お願ひがあるんですが――」
お品は斯う切り出します。石原の利助の一人娘、二十四五の年増盛りを、『娘御用聞』と言はれるのはわけのあることでせう。
「お品さんが私に頼み――へエ――それは珍らしいネ、腕づくや金づくぢや話に乘れないが、膝小僧の代りにはなるだらう。一體どんな事が持上がつたんだ」
錢形平次は氣輕にこんな事を言ひました。お品の話を、出來るだけ滑らかに手繰り出さうといふのでせう。何時でも、さう言つた心構へを忘れない平次だつたのです。
「お聽きでせう? 藏前の札差に強盜の入つた話を――」
「聽いたよ。たつた一人だが、疾風のやうな野郎で、泉屋の一家ばかり選つて荒して歩くといふ話だらう」
二た月ほど前から虱潰しに泉屋一家を荒して歩く曲者、――どんなに要心を重ねても、風の如く潜り込んで、かなり纒つた金をさらつた上、障る者があると、恐ろしい早業で、大根か人參のやうに斬つて逃出す強盜のことは、平次もよく承知して居ります。
「お父つさんはあの通りのきかん氣で、身體が言ふことをきかないくせに、八丁堀の旦那方に小言を言はれると、ツイ請合つて歸つたのだ相です。――泉屋一家で、荒し殘されたのは、あとたつた二軒、それがやられる迄には、きつと縛つてお目にかけますつて――」
「――」
「今度逃がせば、十手捕繩を返上しなければなりません、どうしませう親分」
「成程、それは心配だらう。どんな手口だか私も知らないが容易の捕物ぢやあるまい」
「よく霽れた月の無い晩に限つて押込みます、今晩あたりも又何か始まるでせう。お父つさんは一人で威張つて居ますが、子分と言つても役に立つのは二三人――まさか私が出かけるわけにも行かず、素人衆は幾人手傳つて下すつても、本當に氣が廻らないから、何時でも網の目を脱けるやうに逃げられてしまひます。――親分に來て頂くと申分がありませんが、それでは又父さんが氣を惡くするかも知れず」
お品は淋しさうでした。平次とすつかり融和して居るやうでも、利助にはまだ年配の誇りと、妙に頑固な意地があつたのです。