錢形平次捕物控
本文約12,800字 ・ 読了時間 約26分
あらすじ(AIが作成しました)
左官の伊之助の娘・お北が、行方不明になった弟の乙松を捜してほしいと銭形平次に依頼する。平次と八五郎が調査を進めるうち、乙松の失踪や伊之助の死の裏に、園山家の家督争いを巡る武士たちの隠された謀略があることが明らかになる。お北の悲痛な訴えと平次の鋭い追及により、真相を知る用人たちは追い詰められ、武士の義理と忠義が交錯する中で物語は思わぬ展開を見せる。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「親分、お願ひがあるんだが」
ガラツ八の八五郎は言ひ憎さうに、長い顎を撫でて居ります。
「又お小遣ひだらう、お安い御用みたいだが、たんとはねえよ」
錢形の平次はさう言ひ乍ら、立ち上がりました。
「親分、冗談ぢやない。又お靜さんの着物なんか剥いぢや殺生だ。――あわてちやいけねえ、今日は金が欲しくて來たんぢやありませんよ。金なら小判というものを、うんと持つて居ますぜ」
八五郎はこんな事を言ひ乍ら、泳ぐやうな手付きをしました。うつかり金の話をすると、お靜の髮の物までも曲げ兼ねない、錢形平次の氣性が、八五郎に取つては、嬉しいやうな悲しいやうな、まことに變てこなものだつたのです。
「馬鹿野郎、お前が膝つ小僧を隱してお辭儀をすると、何時もの事だから、又金の無心と早合點するぢやないか」
「へツ、勘辨しておくんなさい――今日は金ぢやねえ、ほんの少しばかり、智慧の方を貸して貰ひてえんで」
ガラツ八は掌の窪みで、額をピタリピタリと叩きます。
「何だ。智慧なら改まるに及ぶものか、小出しの口で間に合ふなら、うんと用意してあるよ」
「大きく出たね、親分」
「金ぢや大きな事が言へねえから、ホツとしたところさ。少しは附合つていゝ心持にさしてくれ」
「親分子分の間柄だ」
「馬鹿ツ、まるで掛合噺見たいな事を言やがる、手つ取り早く筋を申し上げな」
「親分の智慧を借りてえといふのが、外に待つて居るんで」
「誰方だい」
「大根畑の左官の伊之助親方を御存じでせう」
「うん――知つてるよ、あの酒の好きな、六十年配の」
「その伊之助親方の娘のお北さんなんで」
ガラツ八はさう言ひ乍ら、入口に待たして置いた、十八九の娘を招じ入れました。
「親分さん、お邪魔をいたします。――實は大變なことが出來ましたので、お力を拜借に參りましたが――」
お北はさう言ひ乍ら、淺黒いキリヽとした顏を擧げました。決して綺麗ではありませんが、氣性者らしいうちに愛嬌があつて地味な木綿の單衣も、こればかりは娘らしい赤い帶も、言ふに言はれぬ一種の魅力でした。
「大した手傳ひは出來ないが、一體どんな事があつたんだ、お北さん」