TRENDIA CLASSIC

錢形平次捕物控

野村胡堂

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「錢形平次親分といふのはお前樣かね」

中年輩の駄馬に布子を着せたやうな百姓男が、平次の家の門口にノツソリと立ちました。

老けてゐるのはその澁紙色に焦けた皮膚のせゐで、實は三十五六をあまり越してゐないかもわかりません。油氣のない髮を藁しべで結つて、月代は伸び放題、從つて熊の子のやうな凄まじい髯面ですが、微笑すると眼尻に皺が寄つて、飛んだ可愛らしい人相になります。

「錢形の親分は奧にゐるよ――俺は子分の八五郎といふものさ」

八五郎はさう言つて、グイと長んがい顎を引いて見せました。

「道理で――」

百姓男は感に堪へた顏をするのです。

「御挨拶だね、何か用事があるのかい」

「江戸開府以來といはれた捕物の名人にしちや、少し變だと思ひましたよ。惡く思はないで下さいよ」

「言ふことが一々丁寧で腹も立てられねえ」

相手が正直過ぎて、八五郎のガラツ八も大たじ/\でした。

「八、何をして居るんだ。お客なら早く取次ぐが宜い」

平次は奧から聲を掛けます。奧と言つても入口の三疊の隣の六疊。首を伸せば、格子の外に立つた客の睫毛も讀めさう。

こんなやり取りがあつて、客の百姓男は漸く中へ通されました。

疊の上へ眞四角に坐ると、座布團から膝が二三寸はみ出して、その上に置いた手が、八つ手の葉のやうにでつかいのも、何となく大地の子らしい人柄を思はせます。

「錢形の親分さんで御座いますか。私は柏木の在の者で、百兵衞と申しますが――」

百姓男は慇懃に挨拶しましたが、八五郎に氣を兼ねたものか、容易に用事を切出しません。

「これは八五郎と言つて俺同樣の男だ。遠慮なく話すが宜い。一體どんな用事で柏木から遙々來なすつたんだ」

平次はもどかしさうに誘ひの水を向けます。

「それぢや申しますが、實は親分さんに御願ひがあつて參りました」

「――」

「外ぢやございませんが、親分の智惠でこれを一つ判じて頂き度いんで」

百兵衞はさう言つて、内懷ろから欝金木綿の財布を出すと、中から大事さうに疊んだ紙片を拔取り、その皺を寧丁に[#「寧丁に」はママ]膝の上に伸して、平次の方に押しやるのでした。

紙片は半紙を四つに切つて、それに禿筆で書いたもの、

ほうきからたつみ

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