TRENDIA CLASSIC
錢形平次捕物控
野村胡堂
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一
「親分、變なことがあるんだが――」
ガラツ八の八五郎は、大きな鼻の穴をひろげて、日本一のキナ臭い顏を親分の前へ持つて來たのでした。
「横町の瞽女が嫁に行く話なら知つてるぜ。相手は知らないが、八五郎でないことは確かだ。今更文句を言つたつて手遲れだよ八。諦めるが宜い」
錢形平次は無精髯を拔き乍ら、ケロリとして斯んなことを言ふのです。お盆過ぎのある日、御用がすつかり暇になつて、凉みに行くほどのお小遣ひもない退屈な晝下がりでした。
「冗談ぢやありませんよ。横町の瞽女はあゝ見えても金持だ。こちとらには鼻も引つかけちやくれませんよ、へツへツ」
「嫌な笑ひやうだな。さては一と口申込んで小氣味よく彈かれたらう」
「へツ、彈ねたのは此方で」
「うまく言ふぜ」
「ところで親分變な話の續きだが――」
「さう/\變な話を持つて來たんだね。瞽女の嫁入りの話でないとすると、叔母さんがお小遣ひでもくれたといふのか」
「交ぜつ返しちやいけません。此の手紙ですよ、親分」
八五郎は懷中から一通の手紙を出すと、疊の上を滑らせるやうに、平次の前へ押しやりました。
「何? 手紙」
「達筆で書いてあるから、よくは讀めねえが、大凡の見當は、二千兩といふ大金を、この春處刑になつた大泥棒の矢の根五郎吉が、このあつしに形見にやるといふ文句だ。手紙を出した主は五郎吉の弟分で、兄よりも凄いと言はれた彦徳の源太――」
「お前へもそんな手紙が行つたのか、八」
錢形平次の聲は急に緊張しました。
「すると、親分は?」
「知つてゐるよ。いや、知つてゐるどころの騷ぎぢやない。俺のところへもそれと同じ手紙が來てゐるんだ」
「へエ――」
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