TRENDIA CLASSIC

錢形平次捕物控

野村胡堂

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「親分、變な奴が來ましたよ」

ガラツ八の八五郎は、長んがい顎を鳶口のやうに安唐紙へ引つ掛けて、二つ三つ瞬きをして見せました。

「お前よりも變か」

何んといふ挨拶でせう。錢形平次は斯んなことを言ひ乍ら、日向に寢そべつたまゝ、粉煙草をせゝつて居るのです。

「へツ、あつしよりは若くて可愛らしいので」

「新造か、年増か、それとも――」

「何處かの小僧ですよ。――錢形の親分さんは御在宅で御座いませうか――つて、大玄關で仁義を切つてますよ、バクチ打と間違へたんだね。水でも打つかけて、追ひ返しませうか」

「待ちなよ、そんな荒つぽいことをしちやならねえ。この平次を鬼のやうな人間と思ひ込んで鯱鉾張つてゐるんだ、丁寧に通すが宜い」

「へエ――」

やがて、ガラツ八の所謂大玄關の建て付けの惡い格子戸をガタピシさして、一人の客を招じ入れました。

「今日は、親分さん」

敷居際でお辭儀をして、ヒヨイと擧げた顏を見ると、精々十五六、まだ元服前の可愛らしい小僧でした。

正直らしいつぶらな眼も、働き者らしい淺黒い顏も、そして物馴れないおど/\した調子も、妙に人をひき付けます。

「そんなに改まらなくたつて宜いよ。――此野郎に脅かされて固くなつたんだらう。安心するが宜い、お上の御用は勤めてゐるが、人を縛るのが商賣ぢやねえ」

平次は八五郎と小僧を見比べ乍ら、取なし顏にこんな事を言ふのでした。

「それがその――縛つて貰ひ度いんで、親分」

小僧は途方もないことを言ひます。

「縛つて貰ひ度い――誰だい、そいつは?」

平次は漸く居住居を直しました。可愛らしく膝小僧を二つ並べて、眞つ正面から平次を見入る、一生懸命な二つの瞳を見ると、ツイ斯う生眞面目にならずには居られなかつたのです。

「旦那を殺した奴を縛つて下さい、親分さん」

「旦那を殺した奴? そいつは穩かぢやないな。――一體誰が誰を殺したといふのだ。落着いて話して見るが宜い」

平次は雁首で煙草盆を引寄せて、相手の氣の鎭まるのを待つやうに、ゆる/\と二三服吸ひつけました。

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