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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約11,400字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

銭形平次は、八五郎から持ち込まれた謎の文字が刻まれた鼈甲の櫛を鑑定する。平次はそれが千鳥がけに読まれる暗号であることを解き明かし、谷中の茶屋で起こった変死事件と少年の不審な死の真相に迫る。奉公人の音吉が遺産目当てに複雑な仕掛けを施していたことを突き止め、鮮やかに事件を解決する様子を描く。

野村胡堂

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一

「親分、良い陽氣ですね」

「何んだ、八にしちや、大層お世辭が良いぢやないか。何にか又頼み度い事があるんだらう。金か御馳走か、それとも色の取持か。どつちだ」

錢形平次と八五郎は、斯んな調子で話を始めたのです。

「そんな氣障なんぢやありませんよ。金はふんだんにあるし、うまい物は腹一杯に食べてゐるし、女の子はうるさいほど付き纒ふし、此樣子ぢやどうも身が保てねえ」

「馬鹿野郎、張り倒すよ」

「へツ自分は張り倒されて見てえ位のもので、近頃はもて過ぎてポーとして居ますよ」

八五郎はさう言つて、八つ手の葉つぱのやうな手の平を、自分の耳のあたりでパツと開いて見せるのでした。

「呆れて物が言へねえ。少し何うかして居るんぢやないか、八」

「どうもしたわけぢやありませんよ、今日は、一番親分の智惠を試しに來たんで」

「言ふことが一々疳にさはるな。お前に試されるやうな智惠は、横町の隱居に貸してやつたから、今日は生憎だ」

「へツ、智惠の時貸しは驚いたな、――尤も、こんなのは平常使ひの智惠袋で結構で――、これですよ、親分」

八五郎が懷中から取出したのは、小菊に包んだ小さい品物でした。受取つて開けると、中から出たのは、飴色の鼈甲の――少し時勢遲れの大振りな櫛が一つ。

「これは何んだ」

「櫛ですよ」

「櫛はわかつて居る――まさか熊手と間違やしめえ」

「その櫛に曰くがありさうなんで」

「何處の新造に貰つて來たんだ」

「今頃こんな古風な櫛を差す新造はありませんよ、――私の伯母の知合――と言つたところで、死んだ亭主の墓詣りに行つて懇意になつた、谷中の養仙寺前の茶屋の嫁が、里の母親が死んで一年半も經つてから、形見に貰つた此櫛が、どうも腑に落ちないことがあるから、八五郎親分に見て貰ひ度いつて、伯母のところへ屆けて來たんですつて――さう言はれると、結構な鼈甲の肌に、引つ掻きのやうな、假名文字のやうなものが見えますね」

八五郎の説明が、七面倒に持つて廻る間、平次は指先で撫でたり、陽に透したり、いろ/\の角度から櫛を眺めて居りました。

「ぢや、八五郎親分が鑑定してやるが宜い。お前の智惠試しに丁度誂へ向ぢやないか」

「ところが駄目で」

「兜を脱いだのか」

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