錢形平次捕物控
本文約13,300字 ・ 読了時間 約27分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の豪商・上總屋の死後、多額の財産が行方不明になる騒ぎが起こる。番頭の仙之助は、主人の隠し金が見つからないと、一人娘のお染の縁談が破談になると危惧する。周囲が財宝探しに奔走し殺傷事件まで発生する中、錢形平次は事件の背後に潜む人間の欲望と愛憎を見抜き、巧みな推理で真相に迫る。金銭の多寡に翻弄される人々の姿と、純粋な心を通わせる二人の若者の行方を描く捕物帳。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「親分、飯田町の上總屋が死んださうですね」
ガラツ八の八五郎は、またニユースを一つ嗅ぎ出して來ました。江戸の町々がすつかり青葉に綴られて、時鳥と初鰹が江戸ツ子の詩情と味覺をそゝる頃のことです。
「上總屋が死んだところで俺の知つたことぢやないよ」
錢形平次は丹精甲斐もない朝顏の苗を鉢に上げて、八五郎の話には身が入りさうもありません。
「ところが、聞き捨てにならないことがあるんですよ、親分」
「上總屋の死に樣が怪しいとでも言ふのか」
「二年も前から癰を患つて居たつていふから、人手にかゝつて死んだとすれば、町内の外科が下手人見たいなもので――」
「落し話を聽いちや居ない、――何が聞き捨てにならないんだ」
平次は漸く朝顏から注意を外らせました。
「金ですよ、親分。上總屋音次郎が、鬼と言はれ乍ら、一代にどれほどの金を拵へたと思ひます?」
ガラツ八はなか/\の話術家です。平次が滅多な事件に手を染めないのを知つて、かう乘出さずには居られないやうに持ちかけるのでした。
「五六萬兩かな、――有るやうでないのは何んとかだと言ふから、精々三萬兩ぐらゐのところかな」
「さう思ふでせう。ね、親分」
「イヤにニヤニヤするぢやないか、それとも十萬兩もあつたといふのかい。こちとらから見れば十萬兩は夢のやうな大金だが、上總屋なら」
平次はガラツ八に焦らされると知つて、忌々しくも煙草入を拔いて一服つけました。
「尤もこちとらに十萬兩もあつた日にや、あつしは早速十手捕繩と縁を切つて――」
ガラツ八の話は、また妙なところへ飛躍して行きます。
「金貸にでもなつて懷手で暮すつもりだらうが、さうは問屋が卸さないよ」
「そんなサモしい根性ぢやありませんよ。先づ山ノ手の百姓地を五六萬坪買つて――」
「大きく出やがつたな、人參牛蒡でも作る氣になつたか」
「大違ひ、――親分に植木屋を始めて貰つて、あつしはそれを江戸の縁日へ持出して賣る」
「馬鹿だなア」
平次は仕樣ことなしに苦笑をしました。そんな氣でゐる八五郎の心根が哀れでもあつたのです。
「ね、親分。冗談は冗談として、上總屋の話だが、――誰でも一應は萬と纒まつた金があるに違ひないと思ふでせう」
「それがどうした」