錢形平次捕物控
本文約10,900字 ・ 読了時間 約22分
あらすじ(AIが作成しました)
お弓町の旗本屋敷で腰元のお玉が不審な死を遂げる。手紙で訴えを受けた岡っ引きの銭形平次は、お玉の兄と共に屋敷へ赴くが、旗本という身分の壁に阻まれ真相究明を阻まれる。事件の背景には屋敷の若様による横暴があった。平次は真実を突き止めつつも、愛する人を奪われ武家の権力に絶望した若党の友吉の心情を察し、その行く末を見守ることを選択する。町方の役人として、法の外にある武家社会の闇と個人の情愛が交錯する中で平次が下した決断を描く。
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一
「親分、あつしはもう癪にさはつて――」
ガラツ八の八五郎は、拳骨で獅子ツ鼻の頭を撫で乍ら、明神下の平次の家へ飛び込んで來ました。
江戸の町が青葉で綴られて、薫風と五月の陽光が長屋の隅々まで行き渡るある朝のこと、
「八の野郎がまた朝つぱらから癪の種なんか持込んで來やがつたぜ。落着いて飯も食へやしねえ」
平次は大きな箸箱へ、ガチヤガチヤと自分の箸をしまひ込んで、お靜の方へ膳を押しやると、心得たお靜は、それを持つてスーツとお勝手へ立ちました。まご/\すると、八五郎に蹴飛ばされさうだつたのです。
「親分、聽いて下さいよ。あつしはもう、癪にさはつて――」
「わかつたよ、又角の酒屋の親爺に先月の拂のことでも當て擦られたんだらう」
「酒屋に借りなんか拵へるものですか、米屋の拂ひなら半歳も溜めるが」
「あんな罰の當つた野郎だ」
「癪にさはつたのはりやんこですよ」
八五郎は大きな指を二本、腰のあたりに當てて見せました。
「惡い癖だ、武家と野良犬はからかはない方が良いと言つてるのに」
「それがその、放つちや置けなかつたんで――これを見て下さいよ、親分」
八五郎は懷ろ深く探つて、皺くちやな紙片を取り出すと平次の膝の前へ、煙管を風鎭に押し伸ばすのでした。
「恐しく下手な字ぢやないか。まさかお前が書いたんぢやあるまいな」
「これでも、あつしの字よりは少し筋が良い」
「字のことになると、自慢がないから、八も可愛らしいよ、――それにしても、こいつは鹿尾菜をバラ撒いたやうぢやないか、お前讀んで見な」
半紙一枚へ、馬糞墨で書いた、下手な字が一パイ。
「こいつは讀むのにコツがありますよ。お弓町の多良井藏人樣のお腰元お玉が死んだ。自害といふことになつてゐるが、人に殺されたに違ひない。親分のお力で下手人を擧げて、お玉の怨を晴らして下さい、頼む――とね」
八五郎が辨慶讀みにした手紙の文句から、事件の重大さと、この手紙を書いた者の、燒きつやうな熱意を感じないわけに行きません。
「それでお前は行つたのか」