一
「親分、變な野郎が來ましたぜ」
ガラツ八の八五郎、横つ飛びに路地を突つきつて、庭口から洗濯物をかきわけながら、バアと縁側へ顏を出しました。神田明神下の錢形平次の住居、秋の朝陽が長々と這ひ上がつて、簡素な調度を照らして居ります。
「何處へ何が來たんだ。相變らず騷々しいなお前は」
平次はとぐろをほぐして、面白さうなこの注進を迎へました。
「二本差が二人、肥つたのと、痩せたのが、角の酒屋で訊いて居ましたよ――高名なる錢形平次殿の御屋敷は、この邊ではないか――とね、お屋敷は嬉しいぢやありませんか」
ペロリと舌を出して、所謂平次殿のお屋敷中を一と眼に見渡す八五郎です。
お靜の手が屆くので、何處から何處まで嘗めたやうに綺麗ですが、座布團二枚、長火鉢が一つ、鐵瓶と茶道具と、そして、そして――、それつきりと言つた、簡素そのものの小市民生活です。
「お城と言はないのが見付けものさ、――いづれお家の重寶友切丸かなんか紛失して、易者の代りに俺のところへ來ると言つた寸法だらうよ」
そんな話をして居るところへ、
「頼まう」
などと、權柄らしい聲が聞えて來ました。
さて、女房のお靜に取次がせて、たつた一間きりの六疊に通されたのは、八五郎が前觸れをした通り、肥つた中老人と、痩せた若い武家の二人。
「拙者は指ヶ谷町に住居いたす、御簾中樣御用人島五六郎樣用人川前市助と申すもの、主人名代として罷り越しました」
「拙者は富坂町に住んでゐる千本金之丞と申す者」
それは痩せた若い方でした。二人は名乘りをあげて、眞四角にお辭儀をするのです。岡つ引風情に斯う丁寧な挨拶をするのは、いづれ退引ならぬ頼みがあつてのことでせう。
錢形平次は膝つ小僧を揃へて、相手の出やうを待つ外はありません。
「外ではないが、平次殿。折入つての願ひがあつて、我々兩名わざ/\參つたが、何んと聽いてはくれまいか」
川前市助が先に口をきりました。よく肥つて、脂ぎつて、鼻が大胡坐をかいてゐる五十二三の眞つ黒な男ですが、調子が卑下慢で、妙に拔け目がなささうで、申分なく用人摺れがして居さうです。