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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約12,000字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

小石川表町の富裕な呉服屋・鳴海屋で、十八歳の娘・お町が井戸端で不審な死を遂げる。錢形平次は、娘の遺体の耳の中に打ち込まれた疊針を発見し、残忍な他殺と断定する。店を乗っ取ろうと画策する番頭の藤六とお富による奸計が背後にあることを察知した平次は、座敷牢に幽閉されていた跡取りの彌太郎と妹のお信による巧妙な報復の真相に迫りながら、事件の収束へと向かう。

野村胡堂

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一

「親分、良い天氣ですぜ。チラホラ梅は咲いてゐるし、お小遣はフンダンにあるし――」

「嘘をつきやがれ。梅の咲いたのは俺だつて知つてゐるが、八五郎の財布にお小遣がフンダンにあるわけはないぢやないか」

錢形平次と子分の八五郎は相變らずの調子で始めました。

「なアに、お小遣のフンダンにあるのは親分の財布で――」

「あれ、人の財布の中まで讀みやがつて、氣味の惡い野郎だな」

「そこで、ちよいと御輿をあげてくれませんか。すぐ其處なんだが」

平次の出不精を知り盡してゐる八五郎は、ツイ餘計な細工までするのでした。

「いやに落着いてゐるやうだが、お前はもう今朝三里も歩いてゐるだらう――額口に汗を掻いて足から裾は埃だらけぢやないか。良い若い者が、長刀になつた草履なんか履いて行くのは、止しちやどうだ」

「叶はねえなア、親分に逢つちや、――でも埃は草履のせゐで、道はそんなに遠くはありませんよ」

「何處だ?」

「小石川表町、傳通院の前。山の手一番と言はれた呉服屋、鳴海屋の娘が殺されたらしいんで、富坂の周吉親分からの使ひで、朝のうちに一と走り行つて見て來ましたよ」

「それで?」

「死んだのは鳴海屋の娘でお町といふ十八の可愛いゝ盛り。井戸へ落ちて死んだといふ屆出だが、死骸を見ると、腑に落ちないことばかりだ。ちよつと親分行つて見て下さい。周吉親分が持て餘して、井戸ばかり覗いてゐますよ」

「仕樣がねえなア」

「十八や十九の滅法可愛らしいのが、寢卷で井戸へ飛び込むのも色氣がなさ過ぎるし、過ちにしても、水垢離を取りやしめえし、若い娘が、夜中に井戸端へ行くのも變ぢやありませんか」

「大層氣が付くぢやないか。其處まで解るなら、俺を呼出す迄もあるめえ」

平次の尻の重いのは、出來ることなら八五郎に手柄を立てさせようといふ、子分思ひの不精さでもありました。

「自慢ぢやねえが、その先は少しもわからねえ。周吉親分もさう言ひましたよ、八五郎兄哥にさう言つてやつたら、錢形の親分をつれて來てくれるだらうと思つたのに、獨りで來るのは人の氣も知らない、――てね」

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