本文へ移動
TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約12,800字 ・ 読了時間 約26分

あらすじ(AIが作成しました)

東両国の見世物小屋で人気を集める美女・お夢が、何者かに命を狙われる事件が発生する。銭形平次は、お夢の身に起きた不可解な出来事をきっかけに捜査を開始する。一座の人間関係や嫉妬が渦巻く中、二階から火鉢が投げられるという再度の襲撃が起こる。平次は現場の状況から、お夢が抱く他者への憎悪と、それによって引き起こされた悲劇を明らかにしていく。美しき仮面の裏に隠された醜い心と、周囲の人々の運命を鮮やかに描き出す物語。

野村胡堂

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 16

一

「親分、東兩國に大層な小屋が建ちましたね。あツしは人に誘はれて二三度覗きましたが、いや、その綺麗さといふものは」

八五郎は相變らず江戸中のニユースを掻き集めて、親分の錢形平次のところへ持つて來るのでした。

「御殿造りの小屋でも建つたのかえ」

「そんな間拔けなものぢやありませんよ。小屋は昔からチヤチなものですが、中味が大變なんで、たまらねえほど綺麗な娘太夫が二人」

「馬鹿だなア、まだ松も取れないうちから、兩國の見世物小屋へ日參して居るのか」

「日參といふ程ぢやありませんよ、五日の間にたつた三度」

八五郎はでつかい指などを折つて勘定して居るのです。

「呆れた野郎だ。どうせ十手を見せびらかして、唯で入るんだろう」

「飛んでもない、最初は正直に十六文の木戸を拂ひましたよ。それで『一と目千兩』と言はれる、お夢の顏を拜んで、達者なお鈴の藝を見るんだから、九百九十九兩三分三朱くらゐは儲かるやうなもので――」

「お前といふ人間は、よく/\長生きするやうに出來て居るよ」

「二度目にはあつしといふ者が、錢形親分の片腕の八五郎とわかつて――」

「お前は俺の片腕かい、大したことだな。お前が居なきや、俺は手棒になるわけだ」

「まア、さう言ふことにして置いて下さいよ。兎も角二日目から木戸錢を取らないばかりでなく、妙にチヤホヤして、明日からはどうぞ毎日來て下さいと、一目千兩のお夢などは、泣かぬばかりに頼むぢやありませんか」

「嫌なことだな。何んだつて又、そんなに持てたんだ――急に顎なんか撫で廻したつて、その上男つ振りが好くはなるまいな」

「好い男のせゐもありますが、實は近頃チヨイチヨイ無氣味なことがあるんですつて」

「無氣味なこと?」

「取立てて話すほどのことでもないが、ことによつたら私は命を狙はれて居るかも知れない――と一と目千兩のお夢が言ふんですからね」

「何んだえ、その一と目千兩といふのは。眇目が千兩箱の夢でも見たと言ふのか」

「驚いたなア、錢形の親分があれを知らないんですか。近頃江戸中の評判ですが」

「さては、何時の間にやら、俺は江戸つ兒の人別を拔かれたかな」

野村胡堂の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本