TRENDIA CLASSIC

錢形平次捕物控

野村胡堂

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「親分、大變ツ」

日本一の淺黄空、江戸の町々は漸く活氣づいて、晴がましい初日の光の中に動き出した時、八五郎はあわてふためいて、明神下の平次の家へ飛び込んで來たのです。

「何んて騷々しい野郎だ。今日は何んだと思ふ」

これから屠蘇を祝つて、心靜かに雜煮の箸をとらうといふ平次、あまりの事にツイ聲が大きくなりました。

「相濟みません。元日も承知で飛び込んで來ましたよ――お目出度う御座います。昨年中はいろいろ」

八五郎はあわてて彌造を拔くと、氣を入れ換へたやうに世間並の挨拶になるのでした。

「――本年も相變らず、――ところで何が大變なんだ。まだ雜煮も祝つちや居めえ、よかつたら屠蘇を流し込んで、腹を拵へながら聽かうぢやないか」

平次は八五郎を呼び入れると、大急ぎで膳を一つ拵へさせ、長火鉢を押しやつて相對しました。

「さア、一つ――八さんが此家でお屠蘇を祝つて下さるのは、何年目でせう」

お靜は片襷を外して、そつと徳利を取上げました。夜店物の松竹梅の三つ重ねが、一つは縁が缺けて、

「お、とゝ、と」

八五郎が號令をかける迄もなく、半分しか酒が注げません。

「お前も此方へ膳を持つて來るが宜い。元日早々立ち身のまゝで、お勝手で殘り物をあさるなんざ、結構なたしなみぢやないぜ」

客があるとツイ、お勝手で食事をすませるお靜の癖が、平次には氣になつてならなかつたのです。

「成程、そいつは氣が付かなかつた。あつしは縁側の方へ退きませう。日向ぼつこをしながらお雜煮を祝ふのも、飛んだ榮耀ですぜ」

「あら、八さん、そんなにして下さらなくとも」

お靜も漸く一座に加はりました。半分開けた障子は、手細工の切張りだらけですが、例の淺黄色の空が覗いて、盆栽の梅の莟のふくらみが、八五郎の膝に這つて居るのです。

「ところで、何んだつけ、八五郎が持込んで來た大變の正體は?」

「まだ話しませんよ」

「さうだらう、聽いたやうな氣がしねえ。御用初めに聽いて置かうか、どうせ目出度い話ぢやあるめえ」

「ところが、目出度いやうな、馬鹿々々しいやうな、氣の毒なやうな、可笑しな話なんで」

「何處かの三河萬歳で聽いて來た口上だらう、それは」

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