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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約22,000字 ・ 読了時間 約45分

あらすじ(AIが作成しました)

元日の朝、豊島町の大黒屋徳右衞門が積み上げられた千両箱の下敷きになり負傷する。錢形平次は八五郎と共に現場を捜査し、大黒屋の金銭を巡る悪事や家族内の不和を明らかにする。その後、平次は店で起きた新たな殺人に着目し、米松が犯行に及んだ真実を解き明かす。強欲な主人とそれに翻弄される周囲の人々の人間模様を背景に、平次が冷静な洞察力で事件の真相へと迫っていく様子を描く。

野村胡堂

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一

「親分、大變ツ」

日本一の淺黄空、江戸の町々は漸く活氣づいて、晴がましい初日の光の中に動き出した時、八五郎はあわてふためいて、明神下の平次の家へ飛び込んで來たのです。

「何んて騷々しい野郎だ。今日は何んだと思ふ」

これから屠蘇を祝つて、心靜かに雜煮の箸をとらうといふ平次、あまりの事にツイ聲が大きくなりました。

「相濟みません。元日も承知で飛び込んで來ましたよ――お目出度う御座います。昨年中はいろいろ」

八五郎はあわてて彌造を拔くと、氣を入れ換へたやうに世間並の挨拶になるのでした。

「――本年も相變らず、――ところで何が大變なんだ。まだ雜煮も祝つちや居めえ、よかつたら屠蘇を流し込んで、腹を拵へながら聽かうぢやないか」

平次は八五郎を呼び入れると、大急ぎで膳を一つ拵へさせ、長火鉢を押しやつて相對しました。

「さア、一つ――八さんが此家でお屠蘇を祝つて下さるのは、何年目でせう」

お靜は片襷を外して、そつと徳利を取上げました。夜店物の松竹梅の三つ重ねが、一つは縁が缺けて、

「お、とゝ、と」

八五郎が號令をかける迄もなく、半分しか酒が注げません。

「お前も此方へ膳を持つて來るが宜い。元日早々立ち身のまゝで、お勝手で殘り物をあさるなんざ、結構なたしなみぢやないぜ」

客があるとツイ、お勝手で食事をすませるお靜の癖が、平次には氣になつてならなかつたのです。

「成程、そいつは氣が付かなかつた。あつしは縁側の方へ退きませう。日向ぼつこをしながらお雜煮を祝ふのも、飛んだ榮耀ですぜ」

「あら、八さん、そんなにして下さらなくとも」

お靜も漸く一座に加はりました。半分開けた障子は、手細工の切張りだらけですが、例の淺黄色の空が覗いて、盆栽の梅の莟のふくらみが、八五郎の膝に這つて居るのです。

「ところで、何んだつけ、八五郎が持込んで來た大變の正體は?」

「まだ話しませんよ」

「さうだらう、聽いたやうな氣がしねえ。御用初めに聽いて置かうか、どうせ目出度い話ぢやあるめえ」

「ところが、目出度いやうな、馬鹿々々しいやうな、氣の毒なやうな、可笑しな話なんで」

「何處かの三河萬歳で聽いて來た口上だらう、それは」

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