TRENDIA CLASSIC

胡堂百話

野村胡堂

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石川啄木

やはり、平次誕生から、はじめなければ、ならないかも知れない。

が、それは、あまりにも書きすぎた。いずれは触れることとして、ここではまず、古い友人たちから筆を起こそう。

県立盛岡中学……つい一月ほど前、「わが母校わが故郷」とかいうテレビの番組に登場したので、午後九時絶対就寝の私も、この日ばかりは大いに奮発して、夜の十一時まで、眼をあけていたが、昔は、あんな立派な校舎ではなかった。

木造の、少々よぼよぼした教室から、雨天体操場へ廊下つづきになっている。そのうす黒い羽目板の下を歩いていると、うしろから肩を叩いたやつがある。振り返るとクラスメイトの及川古志郎だ。

及川は、のちに海軍大将になったが、当時は文学青年で、妙に新しがった短歌なんぞをいじくっていた。

その及川が、ニヤリとして、

「野村。お前に、こいつを紹介するよ。石川といって、一年下だが、何か書いているそうだ。見てやってくれないか」

みると、及川の横に、こまっちゃくれた少年がいる。私も、及川も、身体は大きい方だったが、それにくらべると、三分の一もないくらいで、骨組みや腕ッ節になる養分が、ことごとく知恵の方へ回ったという顔をしていた。これが、石川啄木との、初対面だった。

その時、直してやった新体詩は、字句は忘れたが、正直なところ、おそろしく下手くそだな、と思った。後年、あんなに有名になろうとは、もちろん、夢にも考えなかった。

しかし、これが縁で、一緒に校友会雑誌の編集をやったり、家へ遊びに行ったり、来たりした。啄木の父親は、内気のように見えて、不思議に気概のある顔をしており、母親は口数も少く、何時もひかえ目に、すわっていた。

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