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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約13,500字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

岡っ引の八五郎は、無銘の脇差を十両で買い取られるという不審な商いをする。この取引相手である遊び人の吉三郎が謎の毒死を遂げたことで、背後にある組織的な抜荷の陰謀が浮かび上がる。捕物名人・銭形平次は、持ち前の洞察力で吉三郎が所持していた牙彫の根附が密輸の手形であることを突き止め、事件の背後に潜む御家人・喜六ら曲者たちとの対決に臨む。江戸の師走を舞台に、銭形平次が鮮やかな銭投げで悪を討つ。

野村胡堂

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一

「親分、近頃金の要るやうなことはありませんか」

押詰つたある日、錢形平次のところへノツソリとやつて來たガラツ八の八五郎が、いきなり長い顎を撫でながら、こんなことを言ふのです。

「何だと? 八」

平次は自分の耳を疑ふやうな調子で、長火鉢に埋めた顏をあげました。

「へツ/\、へツ/\、さう改まつて訊かれると極りが惡いが、實はね、親分。思ひも寄らぬ大金が轉がり込んだんで」

「大きな事を言やがる。お上の御用を承はる者が、手弄などしちやならねえと、あれほどやかましく言つて居るぢやないか」

「博奕なんかで儲けた金ぢやありませんよ、飛んでもない」

ガラツ八は唇を尖らせて、大きく手を振りました。

「それぢや、富籤か、無盡か、――まさか拾つたんぢやあるまいな」

「そんな氣のきかない金ぢやありませんよ、全く商法で儲けたんで」

「何? 商法? 手前がかい」

「馬鹿にしちやいけません、かう見えても算盤の方は大したもので。ね、親分、安い地所でもありませんか、少し買つて置いてもいゝが――」

「馬鹿野郎、二朱や一分で江戸の地所が買へると思つてゐるのか」

「二朱や一分なら、わざ/\親分の耳には入れませんよ。大晦日が近いから、少しは親分も喜ばしてやりてえ――と」

「何だと?」

「怒つちやいけませんよ、ね、親分。錢形の親分は交りつけのねえ江戸つ子だ。不斷は滅法威勢がいゝが、宵越の錢を待ちつけねえ氣前だから、暮が近くなると、カラだらしがねえ。さぞ今頃は青息吐息で――」

「止さねえか、八。言ひ當てられて向つ腹を立てるわけぢやねえが、人の面をマジマジと見乍ら、何てエ言ひ草だ」

平次も呆氣に取られて、腹を立てる張合ひもありません。それほど、ガラツ八の調子は、ヌケヌケとして居りました。

「箱根ぢや穴のあいたのを用立てたが、今日のはピカリと來ますぜ。親分、此通り」

さう言ひ乍らガラツ八は、内懷から拔いた野暮な財布を逆にしごくと、中からゾロリと出たのは、小判が七八枚に、小粒、青錢取交ぜて一と掴みほど。

「野郎、何處からこれを持つて來やがつた」

平次は矢庭に中腰になると、長火鉢越しに、ガラツ八の胸倉をギユーツと押へたのです。

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