錢形平次捕物控
本文約14,100字 ・ 読了時間 約29分
あらすじ(AIが作成しました)
十二社の榎長者と呼ばれた大地主が遺した巨万の富が、当主の没後、親族や家中の者たちが捜索しても発見されない。後家のお照と娘たちが頭を悩ませる中、八五郎から依頼を受けた錢形平次は、不可解な死を遂げた人物の事件や残された謎の文句を紐解きながら、屋敷に残された先祖伝来の宝の所在を突き止めていく。本作は、鮮やかな推理で宝の隠し場所と事件の真相に迫る捕物控を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「親分、金持になつて見たくはありませんか」
八五郎はまた途方もない話を持ち込んで來たのです。やがて春の彼岸に近い、ある麗らかな日の晝過ぎ。
「又變な話を持つて來やがる、俺は今うんと忙しいところだ。金儲けなんかに取合つちや居られねえよ」
「何が忙しいんです、――はたで見ると隨分呑氣さうですね。日向に寢そべつて本なんか讀んでゐて」
「それが忙しいんだよ。曾我の五郎が助かるか、殺されるかといふところだ――」
「そいつは、何處の親類で?」
「曾我物語といふ本に書いてある話だよ。俺の親類の五郎さんぢやねえやな」
平次は自若として、まだ物の本に讀み耽つて居ります。
「呆れたものだ。そんな心掛けだから、親分は何時までも貧乏してゐるんですぜ」
「あれ、變なことを言ふぢやないか。お前は今日、俺に意見をするつもりで來たのか」
「そんなつもりぢやありませんがね。こいつは、鼻の先にブラ下がつてゐる金儲けですぜ。ちよいと親分が知識を働かしてくれさへすれば――」
「お斷りだよ、八。俺はそれどころぢやないんだ」
「五郎さんが死ぬか生きるか――といふ話でせう。それはそれとして、兎に角、この話を聽いて下さいよ。親分が乘り出す出さないは別として、あつしの仕事だと思つて、ちよいと相談に乘つて、女の子を二三人助けてやつて下さいよ」
「あれ、今度は泣き落しと來たのか。金儲けが餌ぢや俺は不精になるばかりだが、八に泣かれちや、そつぽを向いて居るわけにも行くまい、――一體どこの國にでつかい金山があるんだ」
平次は漸く本を閉ぢて、八五郎の方に向き直りました。日向の梅は丁度咲ききつて、屋根に燃える陽炎が、うつら/\と眠りを誘ひます。
何處かで鳴る初午の太鼓。
「有難いね、親分が乘り出してくれさへすれば、こんな話は朝飯前に片付きますよ。うまく行けば、褒美の金が百兩――怒つちやいけませんよ。あつしだつてそんな目腐れ金なんか當てにして居るものですか、三人の女の子の喜ぶ顏を見て――」
「百兩が目腐れ金か、八五郎も氣が大きくなつたぜ。でも、そんなものより、三人の女の子の喜ぶ顏が見たいといふのは嬉しいな」
「尤も、三人のうちの一人は取つて五十三になる」