錢形平次捕物控
本文約13,200字 ・ 読了時間 約27分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の柳原周辺で、通行人を殺傷し金品を奪う辻斬りが相次ぎ、神田界隈を恐怖に陥れていた。明神下の岡っ引き・銭形平次は、子分の八五郎を囮にして犯人を誘い出す作戦を立てる。八五郎は深夜の辻に立ち、危険な辻斬りとの対峙を試みる。本編は、無差別な殺戮を繰り返す犯人の正体と、その背後にある人間の業を、平次がいかに解き明かしていくかを描く物語である。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「又出ましたよ、親分」
八五郎は飛び込んで來るのです。
一月も末、美しく晴れた朝でした。平次はケチな盆栽の梅をいつくしみながら、自分の影法師と話すやうに、のんびりと朝の支度を待つて居たのです。
プーンと味噌汁の匂ひがして、お勝手では女房のお靜が、香の物をきる音までが、爽やかに親しみ深く響いてゐるのでした。
「何が出たんだ。お化けか、山犬か、それとも――」
「辻斬ですよ、親分。暮からこれで五人目だ。――秋から數へると何人になりますか」
「矢つ張り、辻斬か。憎いな」
平次はこの意味のない殺戮者を、心から憎む一人だつたのです。
「今朝になつて、新し橋の袂で死骸を見付けましたがね。毎々のことだから、富松町の直吉兄哥とあつしが立會つて、お屆けは濟ませましたが、殺されたのは武家でもあることか、豐島町の酒屋の隱居で、虫も殺さないやうな、太左衞門といふ六十過ぎの年寄だ」
「虐いことをするぢやないか」
「それに憎いぢやありませんか。太左衞門が無盡で取つた五十兩を、人が危ないととめるのも構はず、氣丈な爺仁で、――小判が喰ひ付きやしめえ。――かなんかで、内懷へ入れて持つて歸つたのを、財布ごと死骸から拔いて居るんで」
「それぢや追剥ぢやないか。辻斬よりも尚ほ惡い」
「この樣子ぢや、柳原を通る人がなくなりますよ。名物の惣嫁も、陣を拂つて姿を消してしまひましたぜ」
「御愁傷樣見たいだ。差當り御客筋のお前は淋しからう」
「冗談言つちやいけません。あつしはそんなものを口惜しがつてるわけぢやありませんが、新し橋を渡ると向柳原で、あつしのお膝元でせう。あんなところで辻斬を開帳されちや、あつしばかりでなく、親分の名前にも係はるぢやありませんか」
「おや、ゆすりがましくやつて來やがつたな。柳原の辻斬が、俺にまで祟るとは思はなかつたよ」