TRENDIA CLASSIC

錢形平次捕物控

野村胡堂

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「又出ましたよ、親分」

八五郎は飛び込んで來るのです。

一月も末、美しく晴れた朝でした。平次はケチな盆栽の梅をいつくしみながら、自分の影法師と話すやうに、のんびりと朝の支度を待つて居たのです。

プーンと味噌汁の匂ひがして、お勝手では女房のお靜が、香の物をきる音までが、爽やかに親しみ深く響いてゐるのでした。

「何が出たんだ。お化けか、山犬か、それとも――」

「辻斬ですよ、親分。暮からこれで五人目だ。――秋から數へると何人になりますか」

「矢つ張り、辻斬か。憎いな」

平次はこの意味のない殺戮者を、心から憎む一人だつたのです。

「今朝になつて、新し橋の袂で死骸を見付けましたがね。毎々のことだから、富松町の直吉兄哥とあつしが立會つて、お屆けは濟ませましたが、殺されたのは武家でもあることか、豐島町の酒屋の隱居で、虫も殺さないやうな、太左衞門といふ六十過ぎの年寄だ」

「虐いことをするぢやないか」

「それに憎いぢやありませんか。太左衞門が無盡で取つた五十兩を、人が危ないととめるのも構はず、氣丈な爺仁で、――小判が喰ひ付きやしめえ。――かなんかで、内懷へ入れて持つて歸つたのを、財布ごと死骸から拔いて居るんで」

「それぢや追剥ぢやないか。辻斬よりも尚ほ惡い」

「この樣子ぢや、柳原を通る人がなくなりますよ。名物の惣嫁も、陣を拂つて姿を消してしまひましたぜ」

「御愁傷樣見たいだ。差當り御客筋のお前は淋しからう」

「冗談言つちやいけません。あつしはそんなものを口惜しがつてるわけぢやありませんが、新し橋を渡ると向柳原で、あつしのお膝元でせう。あんなところで辻斬を開帳されちや、あつしばかりでなく、親分の名前にも係はるぢやありませんか」

「おや、ゆすりがましくやつて來やがつたな。柳原の辻斬が、俺にまで祟るとは思はなかつたよ」

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