TRENDIA CLASSIC

錢形平次捕物控

野村胡堂

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江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次が、幽靈から手紙を貰つたといふ不思議な事件は、子分のガラツ八こと、八五郎の思ひも寄らぬ縮尻から始まりました。

「親分、近頃は暇ですかえ」

「なんて挨拶だ。いきなり人の前へ坐つて、懷手をしたまゝ長い頤を撫でながら――暇ですかえ――といふ言ひ草は?」

平次は脂下りに噛んだ煙管をポンと叩くと、起き上がつてこの茫とした子分の顏を面白さうに眺めるのです。

「錢形の親分が、この結構な日和に籠つて、寢そべつたまゝ煙草の烟を輪に吹いてゐるんだから、暇で/\仕樣がないにきまつて居るぢやありませんか」

「馬鹿だなあ、だからお前はまだろくな仕事が出來ないのだ。斯う寢そべつて煙草の烟を輪に吹いてゐる時こそは、こちとらが一番忙しく働いて居る時なんだ」

「へエ――」

「クルクル動いて居る時は、ありや遊びさ。斯う呑氣さうにして居る時こそ、ありつたけの智慧を絞つて、惡者と一騎討の勝負をして居る時だよ」

「へエ――、一體その惡者は何んな野郎なんで?」

「大層感心するぢやないか、あんまり眞に受けられると引つ込みが付かなくなるが、なアに、そんなたいした相手ぢやない。お前も知つての通り、深川島田町の佐原屋の支配人殺しの一件だが、下つ引任せでまだ下手人が擧らねえから、いよ/\俺も御輿を上げなきやなるまいと思つて居るところよ」

「實はその事なんですがね、親分」

「何んだ、いきなり膝なんか乘り出して」

「その佐原屋の騷動とは、一萬兩とかの金の行方が絡んでゐるさうぢやありませんか」

八五郎の眼の色は少し變つてをります。

「それがどうしたといふのだ」

「あつしは古いことはよく知りませんが、何んでも五年前に死んだ佐原屋の主人甚五兵衞が隱して置いた、一萬兩といふ大金の在所を嗅ぎ出したので、支配人の專三郎が殺されたに違ひない、――首尾よく下手人を捉まへて、一萬兩の金を搜し出せば、千兩の褒美を出す――つて、あの店の采配を振つてゐる、主人の弟の小豆澤小六郎といふ浪人者が言つたさうぢやありませんか」

「フーム」

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