横山
本文約3,800字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
志摩の開拓村である横山を訪れた一行は、地元住民の歓待を受けながら、桃の花が咲き誇る山や英虞湾の美しい景色を堪能する。村の指導的立場にある小出幸十郎や前田敬らとの交流を通じ、国立公園としての発展を夢見る彼らの日々の営みに触れた著者は、理想と現実が交錯するこの地の風景を心に刻み、山を下る。
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賢島から電車に乘つて、暫く來たと思つたところで降りることになつた。今日は横山といふところに泊るといふ日程であつたので、これからその横山に行くことになるのであらうと思はれた。朝は船越村で海女の作業を見、それから多徳島で御木本翁に會ひ、それから賢島から電車に乘つてここまで來たので、もう大分遲く日は西に傾いてゐた。
これから山に登るらしいのでそろ/\と登ることにした。自動車が來るといふ話であつたやうに思つたが、それらしいものは見かけなかつた。來ぬものを空しく待つてゐるよりも、そろ/\でも登る方がよからうと登ることにした。
道は大變毀れてゐて石がごろ/\してゐた。私は足が少しむくんでゐるので坂を登るのが一番つらかつた。極めて歩調を緩めて登つた。同行の人々も皆私に附合つてそろ/\と登つた。
暫く登つたと思ふ時分に、上の方からリヤカーを曳つぱつてゐる子供の一群が下りて來た。さうして私の前に來るとその梶棒につかまつてゐる子供は急に體を後ろに反らして足を突つぱつてそれを止めた。周りについてゐる子供達も皆一齊にとまつた。そのリヤカーの上には座布團が一枚敷いてあつて、それは私を乘せるためのものであつた。
まだ年もゆかぬ子供達の曳いてをる車に乘るといふことは不本意でもあつたが、勇み立つてゐる子供達の好意を無にする氣にもなれなかつたのでそれに乘つた。一人の子供が梶棒の中に入り他の二人は梶棒を曳き其他の子供はあとから押し、又殘りの子供は道にある石ころを蹶飛ばしたり、又大きな石があるとそれを兩手で運んだりした。
それ迄は人家は無かつたが、漸く一つの茶店の前に出て其處で休むことになつた。果汁のやうなものをコップに注いで出した。子供達には御褒美をやつた。年長の子供は一同を代表して慇懃に謝辭を述べた。他の子供達は皆そのあとについてお辭儀をした。