TRENDIA CLASSIC

裸身の女仙

野村胡堂

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綱渡りの源吉が不思議な使い

「姐御」

「シッ、そんな乱暴な口を利いてはいけない」

「成程、今じゃ三千石取のお旗本のお部屋様だっけ、昔の積りじゃ罰が当らア」

芸人風の若い男は、ツイと庭木戸を押し開けて植込の闇の中へ中腰に潜り込みました。

迎えたのは、二十一二の不思議な美しい女です。

武家風にしては、少し派手な明石縮の浴衣、洗い髪を無造作に束ねて、右手の団扇をバタバタと、蚊を追うともなく、話し声を紛らせます。不思議に美しい――と言ったのは、決して無責任な形容詞ではありません。月の光と、縁に吊した灯籠と、右左から照らされたこの女の顔は、全く、想像も及ばぬ不思議な美しさだったのです。首筋に束ねた髪は燃え立つように赤い上、大きく波打って、二つの瞳は碧海を切り取ったように碧く、上丈は五尺二三寸、肌の色は、桃色真珠に血を通わせたような、言いようの無い美しさに匂うのでした。

この一風変った美しさを、人によっては、不気味と見る人もあるでしょうが、この邸の主人、安城郷太郎は、又なきものに寵愛して、本妻の亡き後は、一にもお鳥、二にもお鳥、お鳥でなければ、夜も日も明けぬ有様だったのも無理のないことです。

「そんな嫌な事を言っておくれでない――、それはそうと、あれほど此邸の側へも寄らないようにと言って置くのに、何うして潜り込んで来たのだえ、源吉」

お鳥はたしなめるように、斯う言い乍らも、幾年振りかで逢った、一座の弟太夫、あの綱渡りのうまい源吉を、世にもなつかしく眺めるのでした。

「姐御、すまねえ、俺だってこんな、泥棒猫見たいな恰好までして、人の家へ忍び込み度くはねえが、二年振りで江戸へ帰って来ると、矢も楯もたまらず姉御に逢い度くなったんだよ」

源吉は、この二つばかり年上の美女を物悲しく見上げました。小さい時から一座に育って、恋というにしてはあまりに親し過ぎる二人は、手を取り合って心ゆくばかり話すか、それとも、二匹の犬っころのように、存分に喧嘩でもし度いような、悩ましい衝動をどうすることも出来ませんでした。

「皆んな丈夫かい」

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