TRENDIA CLASSIC

新奇談クラブ

野村胡堂

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蔵園宗三郎の話 「途方もない話をすると思う人があるかも知れませんが、これは総て私の経験した事実で、寸毫のおまけも無い、癪にさわるほど露骨な物語であります」

第二話を引き受けた若い富豪蔵園宗三郎は、その秀麗な面を挙げて、少し極り悪そうに斯う話し始めました。奇談クラブの集会室、例の真珠色の光の中に、女会長の美しい吉井明子を中心に、贅沢の限りを尽した思い思いの椅子が、十二の花弁のように配置されております。

糶台の上に妻を立たせた

画家の巽九八郎が、金に困って、自分のアトリエで持物全部を競売にしたことがありました。客と言うのは、友達関係を辿った知人全部で、主人の巽が金槌で卓子の上を引っ叩き乍ら糶るのですから、滑稽と言えば滑稽、非惨と言えば悲惨、一寸類の無い観物でした。

私は巽九八郎の友達と言うわけではありませんが、巴里に居る頃二、三度逢った縁故があるのと、巽の旨を受けた友人の勧誘があったので、言わば椋鳥格で行って見ることになりました。

アトリエは高円寺から五、六丁入ったところで、木立の中に赤い屋根か何んか見せた、一寸洒落た構えです。玄関を入ると北向の画室を競売室にして、今丁度始まったばかりというところ、主人の巽九八郎は、踏台か何んかの上に立って、五本の指を櫛にして、乱れかかる長髪を掻き上げ乍ら、一段声を張り上げて、

「サア、五十銭、この三脚が五十銭、これでも巴里で買って来たんだから、たった五十銭は可哀想だ、もう一声――」

などとやって居りました。

其の調子は如何にも享楽的で下品で、甚だお座の醒めるものでしたが、折角やって来たものですから、何んとか手頃のスケッチでも落そうと言った、取り止めの無い考えで、私は前の方へ割り込んで行きました。

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