TRENDIA CLASSIC

新奇談クラブ

野村胡堂

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第三の話の選手 「道具立てが奇抜だから話が奇抜だとは限りません。私の秘蔵の奇談は、前半だけ聞くと、あり来りの講釈種の如く平凡ですが、後半を聞くと、聊斎志異か剪灯新話にある、一番不思議な話よりも不思議な積りです。どうぞ、途中で――何んだつまらない――なんて仰しゃらずに、最後の一句までお聴きを願います」

第三の「話の選手」増田晋は、斯う言った調子で始めました。

「――娘心を捉えしは誰そ――という存分にロマンチックな標題を掲げて、私の話は、いきなり享保二年の早春、江戸神田橋外の舞台に移ります」

奇談クラブの集会室は、夢見るような微光の中に、春らしく更けて行きます。

奇怪、閨の若衆

桜子はふと眼を覚しました。

そんな場合によくある、襲われるような不快な心持などは微塵もなく、春雨の降り頻る朝、護持院の鐘の音に、淡い夢から揺り起される時のような、何んとも言えない甘美な心持で、薄眼を開いて、そっと四方を見廻したのです。

誰やら、其の辺に居る様子――。

多分小間使のお春でしょう。

桜子はそう思い乍ら、もう一度うとうとしかけましたが、夜の物が厚かったせいか、少し汗ばむような気がして、我にもあらず、双腕を浅く抜いて、絹夜具の上へ投げました。

「…………」

今度ははっきり人の気配を感じます。

と、娘の敏感さで、一瞬の間に眼が水の如く冴えて、異常な亢奮に、胸の鼓動が高鳴ります。

「誰?」

片肱を枕に突いて、物音のした方を屹と見ると、有明の絹行灯――少し丁子が溜って薄暗くなった蔭、政信の描いた二枚折屏風から、一人の色若衆が脱け出して、畳に片手を突いたなり首を少し傾げて、凝っと此方を見詰めて居るのでした。

「あッ」

桜子の声は喉のうちに消えて、軽い戦慄が、スーッと身体を走ります。

眼を外そうとしましたが、それも叶いません。瞳は若衆に吸い付けられて、厭応無しに、睫毛の一本一本、着物の模様の一つ一つまでも、読ませられてしまいます。

そのうちに、政信の絵から脱け出したのではなく、政信の描いた若衆よりも、もっと艶麗な、もっと活々した美少年が、二枚折の蔭から半身を出して、桜子の寝姿を、いとも惚々と眺めて居るのだということが判然わかりました。

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