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TORENDIA

新奇談クラブ

本文約13,100字 ・ 読了時間 約27分

あらすじ(AIが作成しました)

天保十一年の江戸、名人彫物師の松本鯛六は、亡き恋人の華魁小紫の願いにより、その姿を精巧な人形に彫り上げる。完成した人形は不思議な妖気を放ち、周囲の人々を惑わし騒動を引き起こす。やがて人形は事件の容疑者として獄門にかけられ首を斬られるが、その表情は罪業から解放されたかのような法悦に満ちていた。彫物師と一人の男が人形に込められた真意を明かし、魂の救済を願うまでの経緯を描く物語。

野村胡堂

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名人大六雲鼎 「人形の首を梟した、――という話、気味は悪いが、充分に面白い積りです」

第六番目に立った話の選手大滝左馬太は、奇談クラブの談話室で、斯う話し始めました。

「これも今の世の事ではありません。天保十一年の晩春、十一代将軍家斉の治下で、江戸の風物は熟れた果物のように、甘酢ぱく頽廃し切った時のこと、私の為には流祖、人形師としては、古今の名人と言われた松本鯛六――一名大六雲鼎は、鑿一挺で大変なものを拵えてしまったのです。これはとても小説になるような話ではありませんが、その代り事実は小説よりも奇なりで、こんな馬鹿馬鹿しい話は、小説家の頭ではとても考え出されません。名人大六雲鼎や、華魁小紫の霊を慰める為に、是非聴いてやって下さい」

大滝左馬太は斯んな調子で始めて行きます。

持ち込んだ華魁人形

「親分」

「何んだ、八」

「人形を見て下さいって男が来ましたぜ」

「何?」

柳原の顔役、左衛門の長次は拱いた腕を解いて、その分別臭い顔を挙げました。

「両国の活人形に一枚差し加えて下さるまいかてんでさ、恐ろしく丁寧な口をききますが、お貰いのような野郎ですぜ、免倒臭かったら断ってしまいましょうか」

お先っ走りの八、――木戸番と使い走りをやって居る塩辛声の八は、親分の渋い顔を見ると、縁側からこんな呑み込んだ事を言います。

「待て待て誰が免倒臭えなんて言った」

「ヘエ――」

「どうせ、素人衆のももんがあ見てえな細工だろうが、兎に角一応見て上げよう。長次が拝見いたしますって、丁寧に通すんだぞ」

「ヘエ――」

両国に見世物小屋を持って居る長次の許へは、時々飛んでもないものが舞い込みますから、もとより大抵の事では驚きません。やがて八に案内されて来たのは、未だ若い立派な男ですが、尾羽打ち枯らして見る影もない風体、三尺四方ほどに、高さ六尺にも余る素木の箱を、二、三人の子分の者に運ばせて、恐る恐る縁側からにじり込みます。

「御免下さい、私は彫物師の松本鯛六と申す者、唯今は無理な願いを早速お聴き届け下すって有難う御座います」

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