TRENDIA CLASSIC

新奇談クラブ

野村胡堂

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大名生活の一断面 「エロとかグロとか言ったところで、今の人の嗜好や経験は多寡が知れて居ますが、昔の専制的な大名には、随分飛び離れた生活をした人があったようですね。これは私の大伯父から聞いた話で、掛値の無い事実談ですが、荒淫な大名生活の一断面を知る為には、持って来いの恰好な物語でしょう。時は士気も綱紀も頽廃し切った天保の末、大名は小身乍ら、維新にかけて鳴らした人物ですが、旧藩関係で差し障りあるといけませんから、仮に本田北見之守として置きましょう」

第八話の選手旗野広太は、妙に気の利いた調子で始めました。奇談クラブの談話室には、いつもの十三人が顔を揃えて猟奇に燃える瞳を輝やかします。

殿様に許嫁を奪われた男

「何時まで貴公は我慢をする気だ」

「何?」

「空とぼけてはいけない、お雪殿のことだよ」

「フーム」

言い当てられて、南条左馬之助は、あわただしく拱いた腕を解きました。

本田北見之守の家中、百五十石を食む南条左馬之助は、取って二十三歳の秀麗な眉目を、この二た月三月の間、梅雨空のように曇らせてばかり居るのでした。

「無理もないよ南条、武士たるものが、許嫁の女を横取りされて、指を銜えて見て居るという法は無い、たとい相手は主君だろうが、殿様だろうが――」

というのは、堤軍次という浪人者、三十二、三の妙に人摺れのした薄肉の細面に、相手をいら立たせずに措かないと言った、皮肉な微笑を浮べて、左馬之助を仰ぐのでした。

旗本の次男に生れて、身分も相当、腕も智恵も人の三倍も出来た男ですが、賢こさに身を破って、親許は久離切られ、日頃の如才無さが作った道場の友達を漁っては、斯う悪智恵の切り売りをして、食わして貰って歩く厄介者だったのです。

「馬、馬鹿な事を言えッ」

「ハッ、ハッ、ハッ、怒ったか南条、怒るうちは頼母しい、が、考えて見るが宜い。戦場で一番槍一番首を争って、主君の御馬前に討死をするのは素より男子の本懐だ、そうでなくとも、せめて腹でも切らされるとか、手討になるとかなら我慢も出来るが、女を奪られた上に、照れ隠しに加増までされては叶わないな」

「…………」

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