TRENDIA CLASSIC

銭形平次捕物控

野村胡堂

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「親分、どうなすったんで?」

ガラッ八の八五郎は、いきなり銭形平次の寝ている枕許に膝行り寄りました。

「八か、――風邪を引いたんだよ。寝ているのも馬鹿馬鹿しいが、熱が高くて我慢にも起きちゃいられねえ」

平次は手拭で額を縛って、真っ赤な顔をしてフウフウ言っているのです。

「そいつはいけねえ、悪い風邪が流行るんですってね、気をつけなくちゃいけませんよ」

ガラッ八は世間並の事を言いながら、平次の額へそっと触ってみるのでした。

「寝込むほど患ったのは、六つの時麻疹をやってから、ツイぞ覚えのねえ事さ。鬼のかくらんだよ」

「岡っ引の風邪でしょう」

「ふざけちゃいけねえ、病人をからかったりなんかしやがって」

相当苦しそうな平次は、ツイ八五郎の軽口に応酬して、ポンポン言ってみたりするのです。

「からかっているわけじゃねえが、親分が患った日にゃ、御府内は闇だ」

「お世辞なんか言いやがって、馬鹿野郎ッ」

「へッ、お出でなすったね、その威勢のいい馬鹿野郎が聞きたかったんだ」

ガラッ八は掌で、自分の額を一つポンと叩くのでした。

「呆れた野郎だ、見舞に来たんだか、遊びに来たんだか、わかったものじゃねえ」

「見舞ですよ、正真正銘親分の見舞に違えねえ証拠は、この通り手土産を持って来たじゃありませんか」

「大層な口上だな、――塩煎餅の袋でも持って来たんだろう、どうせ」

平次は病人らしくもない元気で、続けざまに八五郎をからかっております。

「どうせ――は情けねえ、見て下さいよ、梅寿堂の上菓子が一と折、灘の生一本が五升」

「上菓子は解っているが、病気見舞に酒を持って来る奴もねえものだ」

「こいつを卵酒にして飲むと、大概の風邪は一ぺんにケシ飛びますよ。もっとも、親分がイヤなら、あっしが飲みながら、一と晩ぐらいは看病してやってもいい」

「呆れた野郎だ」

平次が精一杯呆れ返って、八五郎の馬鹿馬鹿しさも市が栄えたわけですが、何かしら、平次の見当では、割り切れないものがそこに残っているのです。

「変な顔をするじゃありませんか、親分」

ガラッ八は狭い袷の前を合せて、平次のけげんな視線の前にモジモジしました。

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