銭形平次捕物控
本文約15,400字 ・ 読了時間 約31分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸で難病を治し富貴栄達を叶えるという触れ込みで流行する祈祷所「天霊様」。そこに傾倒した親族が次々と行方不明になるという事態が発生する。風邪で床に伏せながらも異変を察知した銭形平次は、子分のガラッ八や女房のお品と共に、祈祷所の背後に隠された悪事の真相と、行方不明者たちの救出に乗り出す。江戸を震撼させる宗教詐欺の裏側で、平次は病身をおして驚くべき策を講じ、事件の解決に挑んでいく。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一
「親分、どうなすったんで?」
ガラッ八の八五郎は、いきなり銭形平次の寝ている枕許に膝行り寄りました。
「八か、――風邪を引いたんだよ。寝ているのも馬鹿馬鹿しいが、熱が高くて我慢にも起きちゃいられねえ」
平次は手拭で額を縛って、真っ赤な顔をしてフウフウ言っているのです。
「そいつはいけねえ、悪い風邪が流行るんですってね、気をつけなくちゃいけませんよ」
ガラッ八は世間並の事を言いながら、平次の額へそっと触ってみるのでした。
「寝込むほど患ったのは、六つの時麻疹をやってから、ツイぞ覚えのねえ事さ。鬼のかくらんだよ」
「岡っ引の風邪でしょう」
「ふざけちゃいけねえ、病人をからかったりなんかしやがって」
相当苦しそうな平次は、ツイ八五郎の軽口に応酬して、ポンポン言ってみたりするのです。
「からかっているわけじゃねえが、親分が患った日にゃ、御府内は闇だ」
「お世辞なんか言いやがって、馬鹿野郎ッ」
「へッ、お出でなすったね、その威勢のいい馬鹿野郎が聞きたかったんだ」
ガラッ八は掌で、自分の額を一つポンと叩くのでした。
「呆れた野郎だ、見舞に来たんだか、遊びに来たんだか、わかったものじゃねえ」
「見舞ですよ、正真正銘親分の見舞に違えねえ証拠は、この通り手土産を持って来たじゃありませんか」
「大層な口上だな、――塩煎餅の袋でも持って来たんだろう、どうせ」
平次は病人らしくもない元気で、続けざまに八五郎をからかっております。
「どうせ――は情けねえ、見て下さいよ、梅寿堂の上菓子が一と折、灘の生一本が五升」
「上菓子は解っているが、病気見舞に酒を持って来る奴もねえものだ」
「こいつを卵酒にして飲むと、大概の風邪は一ぺんにケシ飛びますよ。もっとも、親分がイヤなら、あっしが飲みながら、一と晩ぐらいは看病してやってもいい」
「呆れた野郎だ」
平次が精一杯呆れ返って、八五郎の馬鹿馬鹿しさも市が栄えたわけですが、何かしら、平次の見当では、割り切れないものがそこに残っているのです。
「変な顔をするじゃありませんか、親分」
ガラッ八は狭い袷の前を合せて、平次のけげんな視線の前にモジモジしました。