一
石原の利助が大怪我をしたという噂を聞いた銭形の平次、何を差措いても、その日のうちに見舞に行きました。
同じ十手捕縄を預かる仲間、昔は手柄を張合った気まずい仲でしたが、利助も取る年でいくらか気が挫けた上、平次の潔白な侠気が、何より先に、娘のお品を動かして、今では身内のように付き合っている二人だったのです。
「兄哥、災難だったそうだね。一体、どうしたことなんだ」
案内されて、中へ通った平次、お品の勧める座蒲団を押やって、利助の枕元に膝行り寄りました。
「平次兄哥か、わざわざ有難う。なアに、何でもありゃアしない、言わば、俺が間抜けなんだよ――」
妙に苦い口調で、利助は半面晒布で包んだ顔をねじ向けました。
「眼をどうかしたっていうじゃないか」
「それがこうなんだ、――昨夜、もう蚊もいないし、涼しくて良い心持だから、縁側へ籠枕を出して、無精なようだが、ついウトウトとやると、いきなりハッと眼へ来たものがある」
「ヘエ」
「眼を開いていりゃア、間違いもなく眇目にされたが、幸いつぶっていたから、眉から瞼へかけて恐ろしい傷だ。球も少しはやられたかも知れないが、白眼だから、傷になっても、見えなくなるような事はあるまいと外科は言うよ」
利助はそれでも、床の上へ起き直って、まだ腹立たしさが納まらぬといった調子に、拳固で自分の膝を叩いております。
「そいつは災難だったね、何が一体飛込んで来たんだ」
「銭だよ」
「えッ」
「ちょっと見は、棒で突いたようだが、後で見ると、縁の下に、肉の厚い永楽銭が一枚落ちていたんだ。こいつでやられたことは間違いのねえところだ」
「ヘエ――」
「余程腕の利く奴が、植込みの中から、銭を投りゃアがったんだよ」
「…………」
「どんな怨みがあるか知らないが、太い野郎じゃないか。捕まえたら、眼球でもくり抜いてやろうと思っている」
たった一つの眼を光らせて、一徹な歯を喰いしばる利助の気持を、平次はもとより察し兼ねたわけではありません。