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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約14,100字 ・ 読了時間 約29分

あらすじ(AIが作成しました)

蔵前札差の大徳屋孫右衛門が卒中で急死するが、遺体の不自然な痩せ方や不精髭に疑問を抱いた町医者の服部良庵が銭形平次に密告する。その後、通夜の席で孫右衛門が何者かに刺殺される事件が発生し、遺産を巡る親族や愛人たちの欲望が渦巻く。平次は、現場の証拠や死の直前の状況を冷静に分析し、嫉妬と金銭的執着を抱える愛人お村の犯行を見抜く。自身の死後の騒動を予見していた主人の皮肉な運命と、事件を追う岡っ引きの姿を描く。

野村胡堂

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一

「親分、良庵さんが来ましたぜ」

「ヘエ――、朝から変った人が来るものだね、丁寧に通すがいい」

銭形の平次は居ずまいを直して、客を迎えました。服部良庵という町内の本道(内科医)、頭を円めた五十年輩、黄八丈に縮緬の羽織といった、型のごとき風体です。

「親分、早速だが、大徳屋孫右衛門が死んだことはお聞きだろうね」

良庵はろくに挨拶もせずに、キナ臭そうな顔をするのでした。

「聞きましたよ。それがどうかしましたかえ?」

「どうもしないから不思議なんで」

「ヘエ――」

「大徳屋さんは丈夫な人だから、私を招んで身体を診せるのは、せいぜい三年に一度、五年に一度ぐらいのものだが、お酒の席や往来では、月に二三度ずつは逢っている。現に昨日も昌平橋ですれ違って、機嫌の好い挨拶を聞いて別れたばかり、まさか、あれほどの元気者が、一と晩のうちに冷たくなろうとは思わなかった」

「すると?」

平次は膝を進めました。

「早合点をしちゃいけない。ね、親分、私は今死骸を診て来たばかりなんだが、変死でないことだけは確かで」

「…………」

「殺されたわけでも、自害したわけでもなく、卒中でポックリ逝ったに違いないが、どうも、私には腑に落ちないことがあるんでネ。ともかく、親分の耳に入れておけば、後で何か面白くないことが起った時、私の言ったことを思い出して下さるだろうとこう思ってな」

服部良庵はつままれたような調子でした。が、後になって考えると、さすがに長い間の経験と、専門家らしいカンで、大事件の匂いを、この時から嗅ぎ出していたことに思い当りました。

「腑に落ちない――にもいろいろあるだろうが、一体どこがどう腑に落ちなかったんで?」

「胸をはだけて見ると、身体がびっくりするほど痩せていたのが第一の不思議さ」

「…………」

「それに、あんな洒落者が、死顔を見ると不精髯だらけ、その上、白髪染が流れ落ちて、小鬢が真っ白だ――四十になったばかりの孫右衛門さんに白髪があろうとは、この私でさえ気が付かなかったくらいだから、もう少し上等の白髪染を使っていそうなものだが」

「それから?」

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