一
「親分、良庵さんが来ましたぜ」
「ヘエ――、朝から変った人が来るものだね、丁寧に通すがいい」
銭形の平次は居ずまいを直して、客を迎えました。服部良庵という町内の本道(内科医)、頭を円めた五十年輩、黄八丈に縮緬の羽織といった、型のごとき風体です。
「親分、早速だが、大徳屋孫右衛門が死んだことはお聞きだろうね」
良庵はろくに挨拶もせずに、キナ臭そうな顔をするのでした。
「聞きましたよ。それがどうかしましたかえ?」
「どうもしないから不思議なんで」
「ヘエ――」
「大徳屋さんは丈夫な人だから、私を招んで身体を診せるのは、せいぜい三年に一度、五年に一度ぐらいのものだが、お酒の席や往来では、月に二三度ずつは逢っている。現に昨日も昌平橋ですれ違って、機嫌の好い挨拶を聞いて別れたばかり、まさか、あれほどの元気者が、一と晩のうちに冷たくなろうとは思わなかった」
「すると?」
平次は膝を進めました。
「早合点をしちゃいけない。ね、親分、私は今死骸を診て来たばかりなんだが、変死でないことだけは確かで」
「…………」
「殺されたわけでも、自害したわけでもなく、卒中でポックリ逝ったに違いないが、どうも、私には腑に落ちないことがあるんでネ。ともかく、親分の耳に入れておけば、後で何か面白くないことが起った時、私の言ったことを思い出して下さるだろうとこう思ってな」
服部良庵はつままれたような調子でした。が、後になって考えると、さすがに長い間の経験と、専門家らしいカンで、大事件の匂いを、この時から嗅ぎ出していたことに思い当りました。
「腑に落ちない――にもいろいろあるだろうが、一体どこがどう腑に落ちなかったんで?」
「胸をはだけて見ると、身体がびっくりするほど痩せていたのが第一の不思議さ」
「…………」
「それに、あんな洒落者が、死顔を見ると不精髯だらけ、その上、白髪染が流れ落ちて、小鬢が真っ白だ――四十になったばかりの孫右衛門さんに白髪があろうとは、この私でさえ気が付かなかったくらいだから、もう少し上等の白髪染を使っていそうなものだが」
「それから?」