銭形平次捕物控
本文約15,900字 ・ 読了時間 約32分
あらすじ(AIが作成しました)
元鳥越の大地主の邸宅で、朝食の味噌汁による中毒が発生し、主人の妻お雪が苦しみの末に亡くなる。平次と八五郎が現場に赴き捜査を開始するが、家中の者は恐怖に震え、不穏な空気が漂っていた。毒物には石見銀山が使われた形跡があり、平次は事件の真相を解明すべく、邸内に潜む冷酷な悪意と愛憎の絡み合う人間模様を追い詰めていく。
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一
銭形平次が関係した捕物の中にも、こんなに用意周到で、冷酷無慙なのは類のないことでした。
元鳥越の大地主、丸屋源吉の女房、お雪というのが毒死したという訴えのあったのは、ある秋の日の夕方。係り同心漆戸忠内の指図で、平次と八五郎が飛んで行ったのは、その日も暮れて街へはもう灯の入る時分でした。
「ヘエー、御苦労様で――」
出迎えた番頭の総助の顔は真っ蒼。
「銭形の親分さんで、――とんだお騒がせをいたします」
そう言う主人源吉の顔にも生きた色がありません。
「皆んな蒼い顔をしているようだが、どうした事だい」
平次は単刀直入に訊きました。
「皆んなやられましたよ、親分さん、運悪く死んだのは平常の身体でなかった家内一人だけで」
主人源吉の頬のあたりに、皮肉な苦笑が歪んだままにコビリ付きます。
「フーム、一家皆殺しをやりかけた奴があると言うのだな」
「ヘエ――」
主人と番頭は顔を見合せました。
「そいつは容易ならぬ事だ、詳しく聞かして貰おうか」
平次も事の重大さに、思わず四方を見廻しました。気のせいか、家中のものが皆んなソワソワして、厄病神の宿のように、どの顔もどの顔も真っ蒼です。
「今朝の味噌汁が悪うございました。飯にも香の物にも仔細はなかった様子で、味噌汁を食わないものは何ともございませんが――」
「味噌汁の中毒というのは聞いたことがないな、――まア、その先を」
平次は不審の眉を顰めながらも、主人の言葉の先を促しました。
「朝飯が済んで間もなく、皆んな苦しみ出しました。――さんざん吐くのでございます。ちょうど、霍乱か何かのような、一時は臓腑まで吐くんじゃないかと思いました。が、それでもうんと吐いたのは容態が軽い方で、あまり吐かない女どもは重うございました」
「女ども?」
「死んだ家内と下女のお越でございます」
「で?」
平次はその先を促します。
「町内の本道(内科医)、全龍さんを呼んで、お手当てをしてもらい、昼頃までには、どうやらこうやら皆んな人心地がつきましたが、昼過ぎになって、つわりで寝んでいた家内がブリ返し、一刻(二時間)ばかり苦しんで、とうとう……」
主人の源吉はさすがに眼を落します。
「それは気の毒な」