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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約14,200字 ・ 読了時間 約29分

あらすじ(AIが作成しました)

横山町の徳力屋千之助は、江の島の崖から突き落とされ、奇跡的に生き延びる。一年後、凄まじい傷跡を負い幽鬼のような姿で江戸へ戻った彼は、かつての許嫁が他へ嫁いだことを知り、自分を殺そうとした下手人を捜し出すために銭形平次の元を訪れる。平次は、生き還った千之助の存在により利益を得る人物が誰であるかという点に着目し、犯人が抱く怨みの真相を解き明かして事件を解決に導く。

野村胡堂

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一

「親分、変な野郎が来ましたぜ」

ガラッ八の八五郎は、モモンガアみたいな顔をして見せました。秋の日の昼下がり、平次は若い癖に御用の隙の閑寂な半日を楽しんでいる折柄でした。

「変な野郎てえ物の言いようはあるかい。お客様に違いあるまい」

「そう言えばその通りですが、全く変ですぜ、親分」

「手前よりも変か」

「へッ」

ガラッ八は見事に敗北しました。

「なんて方なんだ。取次なら取次らしく、口上を聞いて来い」

「それが言わないから変じゃありませんか。名前は申上げられませんが、私のために一生の大事、どうぞ親分さんの智恵を貸して下さい――とこうなんで」

「男だろうな」

平次は妙な事を訊きました。

「大丈夫『猫の子の敵』じゃありません。へッへッ」

ガラッ八が思い出し笑いをしたのも無理のないことでした。二三日前町内の女隠居が「寵愛の猫の子が殺されたから、下手人を捜して敵を討って下さい」と気違いのようになって飛込んだのを知っていたのです。

八五郎の案内につれて、狭い家の中に通されたのは、町人風の若い男が二人。

「…………」

先に立った一人の顔を見ただけで、平次は危うく声を立てるところでした。ガラッ八の八五郎が、変な野郎と言ったのも道理、顔というのは形ばかり、顎は歪み、鼻は曲り、額から月代かけて凄まじい縦傷がある上、無慙、左の片眼までも潰れているのです。

後ろから跟いて来たのは同じ年輩――といっても、無傷なだけに、こっちの方は少し老けているのかもわかりません。三十五六の世馴れた男。頬から耳へかけて、小さいが真っ赤な痣のあるのが唯一の特色です。

「親分さん、とんだお邪魔をいたします」

「御所名前をおっしゃっらない方には、お目に掛らない――と申すほどの見識のあるあっしじゃございませんが――」

平次はまだ釈然としません。

「親分、お腹立は御尤もですが、名前を申上げられないわけがございます。――何を隠しましょう、私は、地獄から参ったものでございます――が」

挙げたのは傷だらけな凄まじい顔。

「えッ」

平次も思わずゾッとしました。ガラッ八などはもう、膝小僧を包んで、敷居際まで逃げ出しております。

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