一
「親分、変な野郎が来ましたぜ」
ガラッ八の八五郎は、モモンガアみたいな顔をして見せました。秋の日の昼下がり、平次は若い癖に御用の隙の閑寂な半日を楽しんでいる折柄でした。
「変な野郎てえ物の言いようはあるかい。お客様に違いあるまい」
「そう言えばその通りですが、全く変ですぜ、親分」
「手前よりも変か」
「へッ」
ガラッ八は見事に敗北しました。
「なんて方なんだ。取次なら取次らしく、口上を聞いて来い」
「それが言わないから変じゃありませんか。名前は申上げられませんが、私のために一生の大事、どうぞ親分さんの智恵を貸して下さい――とこうなんで」
「男だろうな」
平次は妙な事を訊きました。
「大丈夫『猫の子の敵』じゃありません。へッへッ」
ガラッ八が思い出し笑いをしたのも無理のないことでした。二三日前町内の女隠居が「寵愛の猫の子が殺されたから、下手人を捜して敵を討って下さい」と気違いのようになって飛込んだのを知っていたのです。
八五郎の案内につれて、狭い家の中に通されたのは、町人風の若い男が二人。
「…………」
先に立った一人の顔を見ただけで、平次は危うく声を立てるところでした。ガラッ八の八五郎が、変な野郎と言ったのも道理、顔というのは形ばかり、顎は歪み、鼻は曲り、額から月代かけて凄まじい縦傷がある上、無慙、左の片眼までも潰れているのです。
後ろから跟いて来たのは同じ年輩――といっても、無傷なだけに、こっちの方は少し老けているのかもわかりません。三十五六の世馴れた男。頬から耳へかけて、小さいが真っ赤な痣のあるのが唯一の特色です。
「親分さん、とんだお邪魔をいたします」
「御所名前をおっしゃっらない方には、お目に掛らない――と申すほどの見識のあるあっしじゃございませんが――」
平次はまだ釈然としません。
「親分、お腹立は御尤もですが、名前を申上げられないわけがございます。――何を隠しましょう、私は、地獄から参ったものでございます――が」
挙げたのは傷だらけな凄まじい顔。
「えッ」
平次も思わずゾッとしました。ガラッ八などはもう、膝小僧を包んで、敷居際まで逃げ出しております。