一
「あッ危ねえ」
銭形の平次は辛くも間に合いました。夜桜見物の帰りも絶えた、両国橋の中ほど、若い二人の袂を取って引戻したのは、本当に精一杯の仕事だったのです。
「どうぞお見逃しを願います」
「どっこい待ちな、――そんな身投げの極り文句なんか、素直に聞いちゃいられねえ」
「死ななきゃならないわけがございます。どうぞ、親分」
争う二人、平次は叩きのめすように、橋の欄干に押付けました。
「頼むから静かにしてくれ。俺は横山町から駆け付けたんだ。息が切れてかなわねえ、――意見をするのが面倒臭くなると、二人を縛って欄干に晒し物にする気になるかも知れないぜ」
「親分さん」
「解ったよ。三百八十両の大金を巾着切りにやられて、主人への申し訳、言い交した女と一緒に、ドブンとやらかそうという筋だろう」
「えッ」
「お前は、増屋の養子徳之助、――こっちはお富というんだってね」
「そういう親分さんは?」
「神田の平次だ」
「あッ、銭形の――」
徳之助とお富は、死ぬはずの身を忘れて、町の家並に傾く桜月の薄明りの中に、江戸第一番の御用聞と言われた平次の顔を見直しました。
「横山町の店からの使いで飛んで行ってみると、――一度店へ帰ったお前が、お富と牒し合せて飛出したという騒ぎの真っ最中だ。いずれは心中ものだろうと思ったが、永代へ行ったか両国へ行ったか、それとも向島へ遠っ走りをしたか見当がつかねえ、――ともかく、近間の両国へ駆け付けて、幸い間に合ったからいいようなものの、これが永代へでも伸された日にゃ、今頃は三途の川で夜桜を眺めているぜ、危ねえ話だ」
そういう平次の言葉を聞いて、
「…………」
二人はゾッと襟をかき合せました。助けられた今になってみると、三途の川の夜桜が、あまり気味のいいものではなかったのです。
「さア行こうぜ、――店じゃ皆さんも大心配だ。わけても増屋の旦那は、三百八十両のことも忘れて徳之助にもしもの事がなけりゃいいが――と居たり起ったり、神棚に灯明をあげたり、見るも気の毒なほどの気の揉みようだ」
「申し訳もございません、――でも、私はこのまま店へ帰っては済まないことがございます」
「はてネ」