銭形平次捕物控
本文約12,000字 ・ 読了時間 約25分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の狸穴で、浪人の福島嘉平太が竹光で突かれて殺される事件が発生する。銭形平次は与力の笹野新三郎と共に捜査へ乗り出すが、現場には不自然な傷跡や、過去の金蔵破りに関連した疑心暗鬼が渦巻いていた。平次は、嘉平太と確執があった浪人たちの存在や、嘉平太の娘であるお頼を巡る複雑な人間関係を追う。事件の背後には、お頼を執拗に追い求める跡部満十郎の歪んだ情熱と、人間の恐ろしい心理が潜んでいた。
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一
「平次、狸穴まで行ってみないか、竹光で武家が一人殺されたんだが――」
与力笹野新三郎は、ちょうど八丁堀組屋敷に来合せた、銭形平次を誘いました。
「旦那が御出役で?」
「そうだよ。浪人者には違いないが、土地では評判の良い人物だ。放ってもおけまい」
八丁堀の与力が出役するのは、余程の大捕物で、いずれは殺された武家の旧藩関係に、厄介なことでもあるのでしょう。
「お供いたします。ちょうど、八五郎も参っておりますから」
「そうしてくれると都合がいい」
笹野新三郎は、銭形平次を信頼し切っております。土地の御用聞は、うるさい縄張のことを言い出しそうですが、与力のお声掛りで行く分には、文句の言いようはありません。
桜は八重、日和も陽気も、申分のない春でした。竹光で武家が殺されたという、煽情的な事件がなくとも、若くてハチ切れそうな平次は、江戸中を一廻りしたいような心持になっていたのです。
「やっとうの方はいけたんでしょうね、その浪人者は?」
平次は道々も竹光の事が気になってなりません。
「微塵流の遣い手で、さる大藩の指南番までした人物だそうだ」
「それが、竹箆で殺られたんですか」
「変っているだろう」
そんな事を言いながら、三人は芝山内から麻布狸穴へ、うらうらとゆらぐ、街の陽炎を泳ぐように辿っていたのです。
狸穴に着いたのは昼少し過ぎ、この辺は山の手の盛り場で商い家も多く、手軽な見世物や、茶屋、楊弓場などのあった時代ですが、一歩裏通りに入ると、藁葺のしもた家が軒を並べ、安御家人や、隠居屋敷、浪人暮しなどの人が、ささやかな畑を拵えて、胡瓜や南瓜を育てているといった、一種変った風物が特色でもあったのです。
「お待ち申しておりました、旦那」
狸穴のとある家、生垣の前に、土地の岡っ引が待っておりました。狸穴に縁を持たせて鼓の源吉というポンポンした四十男。
「鼓の親分、私も目学問をさして貰いますよ」
平次はへり下って肩の手拭を取りました。
「いいとも、銭形の兄哥が来てくれると、俺も心強いというものだ」
あっさりした口はききますが、何か腹の底に蟠りがないではありません。
「死骸は?」