TRENDIA CLASSIC

銭形平次捕物控

野村胡堂

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「八、たいそう手前は粋になったな」

「からかっちゃいけません、親分」

八五郎のガラッ八は、あわてて、膝っ小僧を隠しました。柄にない狭い単衣、尻をまくるには便利ですが、真面目に坐り直すと、帆立て尻にならなければ、どう工面をしても膝っ小僧がハミ出します。

「隠すな、八、ネタはちゃんと挙がってるぜ」

銭形平次は構わずに続けました。

「へッ、へッ、どの口のネタで?」

「いやな野郎だな、顎なんか撫でて、――近頃手前、遠吠えの稽古をするってえ話じゃないか」

「遠吠えは情けねえ。誰がそんな事を親分に言い付けたんで」

ガラッ八は少しばかり意気込みました。

「手前の伯母さんだよ。――今朝お勝手口へ顔を出して、お静に愚痴を聞かせていたぜ――酒や女の道楽と違って、若い者の稽古所入りが悪いではありませんが、家へ帰って来て唸られると気が滅入ります。糠味噌は蓋に仔細はございませんが、あんな調子っ外れの遠吠えを聞かされたら、どんな気の強い娘も寄り付かないだろうと思うと、可哀想でなりません。御存じの通り、あれはまだ独り者ですから――だとさ。どうだい八、伯母さんは苦労人だろう。あんまり心配さしちゃならねえよ」

「チェッ、憚りながら娘っ子除けの禁呪に小唄をやっているんだ。心配して貰いたくねえ」

ガラッ八はそう言いながらも、耳の後ろをポリポリ掻いております。

「そうだろうとも、だから俺は言ってやってよ。――伯母さんの若い時と違って、この節はあんなのが流行るんだ――てね、小唄一つ歌うんだって、鼻っ先や喉で転がすんじゃねえ。八の野郎は胆っ玉で歌うに違えねえ。――」

銭形平次に悪気があるわけでなかったのですが、伯母の口吻から察して、ガラッ八の八五郎が小唄の師匠に気がありそうにも取れたので、それとはなしに脈を引いて、意見をするものなら、今のうちに意見をしようと思ったのです。

「親分、本当のことを言うと、こいつにはワケがありますよ」

「そうだろうとも。二日も行かなきゃ、師匠の小唄お政が、迎えをよこすほどだって言うから、ワケだって大ありだろうよ」

「嫌だね。伯母さんが、そんな事までブチまけたんですかい」

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