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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約13,400字 ・ 読了時間 約27分

あらすじ(AIが作成しました)

銭形の平次と子分のガラッ八は、広徳寺前で見かけた怪しい女の動向を追う。一方、徳蔵稲荷では堂守が鈴の緒で縛られた無惨な死体で発見される。平次は現場の状況から事件の深層を察し、ガラッ八に鈴売りとして潜入捜査を命じる。鈴を盗み歩く浪人者・白川鉄之助こと河井龍之介の正体を突き止めた二人は、入谷の長屋で追い詰め、捕縛する。事件の背景には島原の乱の残党に関わる鈴の秘密が隠されていたが、平次はそれを追及せず、子分の手柄を立てる。

野村胡堂

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一

「八、あれを跟けてみな」

「ヘエ――」

「逃がしちゃならねえ、相手は細かくねえぞ」

「あの七つ下がりの浪人者ですかい」

「馬鹿ッ、あれはどこかの手習師匠で、仏様のような武家だ。俺の言うのは、その先へ行く娘のことだ」

「ヘエ――、あの美しい新造が曲者なんですかい。驚いたな」

「静かに物を言え、人が聞いてるぜ」

銭形の平次と子分のガラッ八は、その頃繁昌した、下谷の徳蔵稲荷に参詣するつもりで、まだ朝のうちの広徳寺前を、上野の方へ辿っておりました。

「ガラッ八、よく見ておくんだよ、心得のために話しておくが――」

「ヘエ――」

平次は一段と声を落しました。

「武家はちょいと怖い顔をしているが、よくよく見ると顔の造作の刻みが深いというだけのことで、まことに人相に毒がねえ、――牙のある獣に角がなく、角のある獣に牙がねえのと同じ理窟で、あんな怖い顔をした人間は、十中八九は心持のいいものだ。ところが本当の悪党とか、腹の黒い人間というものは、思いの外ノッペリした顔をしているものだよ。見るがいい、あの武家の袂の先には、ここからでも見えるくらい、朱が付いてるだろう、あれが手習師匠の証拠だ、子供の手習を直すとき朱硯に袂の先が入ったんだろう」

「ヘエ――、するとあの美しい娘が悪人てえ証拠は?」

「あの娘と擦れ違ったとき見ると、袖の先に同じように赤いものが付いてるが、それは朱じゃなくて血だ。それにあの娘は広徳寺前で、袂から泥焼きのお狐様を落したろう」

「それは、あっしも見ましたよ。あれは徳蔵稲荷の門前で売っていますね。素焼きのお狐に泥絵具を塗って、一つが十二文、あれは懐中へ忍ばせておくと、願い事が叶うとか言って、手弄みをする手合がよく持っていますが――」

「それだよ、そのお狐を若い女が袖に忍ばせているのも可怪しいが、何かの機みで落っことすと、乾き切った往来の上で尻尾が欠けた。――この通り」

平次はいつの間に拾ったか、内懐から尻尾の欠けた素焼きの狐を出して見せました。

「いつの間に拾いなすったんで、早業だね、親分は?」

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