一
「八、まあそこへ坐れ、今日は真面目な話があるんだ」
「ヘエ――」
八五郎のガラッ八は、銭形平次の前に、神妙らしく膝小僧を揃えました。
「外じゃねえが、――手前もいつまでも独りじゃあるめえ、いい加減にして世帯を持つ気になっちゃどうだ」
平次は二三服立て続けに吸った煙管をポンと投り出して、八五郎の方へ心持ち身体をねじ向けるのでした。
「ヘエ――」
「ヘエ――じゃないよ、相手の選り好みをしているうちに、月代の光沢がよくなってよ、せっかくのいい男が薄汚くなるじゃないか」
「それほどでもねえよ、親分」」
八五郎はそう言いながら、ニヤリニヤリと長い顎を撫でるのです。
「馬鹿野郎、いい男の気でいやがる」
「驚いたね、どうも、叱られているんだか、女房の世話をされているんだか、見当が付かねえ」
「両方だと思え、冗談じゃねえ、手前のお袋はそればかり心配して死んだじゃないか。八の野郎も気はいいが、あの様子じゃ先々が心細い、せめて気立てのいい嫁でも貰ってやって、安心してから死んだ配偶の側へ行きたい――とな、それに手前の叔母さんもそう言っていたよ――」
「親分、貰いますよ、たかが女房でしょう」
「たかが女房――」
「へッ、叔母さんなんかときた日にゃ、猫の子だの嫁だの、生き物を貰うことばかり考えてやがる」
八五郎は少し忌々しく舌鼓などを打ちます。
「死んだ姉の子の手前に、身を堅めさせることばかり考えているんだ、悪く言っちゃ済むめえ」
「だがね、親分、女房を貰うのも悪くねえが、煮豆屋のお勘坊はいけませんよ」
「大層嫌いやがったな、お勘っ子が落胆するぜ」
平次は少しからかい気味です。飛切り真剣な話にも、こんな遊びが入らないと、滑らかな進行をしない二人の間だったのです。
「そんな話なら、あっしは帰りますよ、親分」
「あわてるなよ、八、これから話が本筋に入るんだ、――叔母さんもそう言ったぜ、同じことなら八五郎の気に入ったのがよかろうと、な。よく解った話じゃないか。目を付けた娘がありゃ、今のうちにそう言っておく方がいいぜ、後で実は言い交したのがあるなんざ通用しねえ」