銭形平次捕物控
本文約15,400字 ・ 読了時間 約31分
あらすじ(AIが作成しました)
八五郎は、平次との会話で町内の評判娘たちへの想いを語る。しかし三月の節句後、その内の一人であるお柳が稲荷の境内で何者かに命を奪われる事件が発生する。平次は現場の調査を行い、怨恨が絡む複雑な人間関係を解き明かしていく。やがて吉五郎という男が自ら下手人として名乗り出たことで、悲劇的な顛末が明らかとなる。平次は事件の背後にあるやるせない現実を噛み締めながら、犯行に至った男の心情と残された者の行末に思いを馳せる。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「八、まあそこへ坐れ、今日は真面目な話があるんだ」
「ヘエ――」
八五郎のガラッ八は、銭形平次の前に、神妙らしく膝小僧を揃えました。
「外じゃねえが、――手前もいつまでも独りじゃあるめえ、いい加減にして世帯を持つ気になっちゃどうだ」
平次は二三服立て続けに吸った煙管をポンと投り出して、八五郎の方へ心持ち身体をねじ向けるのでした。
「ヘエ――」
「ヘエ――じゃないよ、相手の選り好みをしているうちに、月代の光沢がよくなってよ、せっかくのいい男が薄汚くなるじゃないか」
「それほどでもねえよ、親分」」
八五郎はそう言いながら、ニヤリニヤリと長い顎を撫でるのです。
「馬鹿野郎、いい男の気でいやがる」
「驚いたね、どうも、叱られているんだか、女房の世話をされているんだか、見当が付かねえ」
「両方だと思え、冗談じゃねえ、手前のお袋はそればかり心配して死んだじゃないか。八の野郎も気はいいが、あの様子じゃ先々が心細い、せめて気立てのいい嫁でも貰ってやって、安心してから死んだ配偶の側へ行きたい――とな、それに手前の叔母さんもそう言っていたよ――」
「親分、貰いますよ、たかが女房でしょう」
「たかが女房――」
「へッ、叔母さんなんかときた日にゃ、猫の子だの嫁だの、生き物を貰うことばかり考えてやがる」
八五郎は少し忌々しく舌鼓などを打ちます。
「死んだ姉の子の手前に、身を堅めさせることばかり考えているんだ、悪く言っちゃ済むめえ」
「だがね、親分、女房を貰うのも悪くねえが、煮豆屋のお勘坊はいけませんよ」
「大層嫌いやがったな、お勘っ子が落胆するぜ」
平次は少しからかい気味です。飛切り真剣な話にも、こんな遊びが入らないと、滑らかな進行をしない二人の間だったのです。
「そんな話なら、あっしは帰りますよ、親分」
「あわてるなよ、八、これから話が本筋に入るんだ、――叔母さんもそう言ったぜ、同じことなら八五郎の気に入ったのがよかろうと、な。よく解った話じゃないか。目を付けた娘がありゃ、今のうちにそう言っておく方がいいぜ、後で実は言い交したのがあるなんざ通用しねえ」